【日本映画】「空白〔2021〕」★★★★☆【感想・レビュー】

作品紹介

【監督】
【出演】/趣里/
【個人的評価】

【あらすじ】主人公 充は、中学生の娘 花音の父親。ある日、花音がスーパーで万引をしようとしたところで、店長に見つかり、追いかけられた挙げ句、車に惹かれて死んでしまう。娘の無実を証明しようとするが、事態は徐々にかわっていく。

最終的には行き場のない気持ちが残ってしまう作品

吉田恵輔監督は、学生時代から自主映画を制作し、2006年『なま夏』で映画監督デビューをしています。2008年に小説『純喫茶磯辺』を発表し、映画化も行っています。「ヒメアノ~ル」「犬猿」「純喫茶磯辺」を制作しており、独特の世界観と演出に定評があります。

古田新太は、1984年『劇団☆新感線』に参加するも、と筧利夫が脱退したことで人気が減少し、テレビの深夜コント番組等に出演するようになる。その後、「夢の遊眠社」「第三舞台」の演劇に出演するようになり、TVドラマや映画へと活動の幅を広げています。

松坂桃李は、2008年にオーディションでグランプリを受賞し、『FINEBOYS』専属モデルで芸能活動、その後、2009年『侍戦隊シンケンジャー』でテレビドラマ初主演をし、多数のテレビや映画に出演しています。

キャッチコピーは「空っぽの世界に、光はあるか。」

本作で、古田新太は、『台風一家』以来、7年ぶりの映画主演作となります。

物語は、とある中学生が万引をしてしまい、逃走時に車に轢かれ死亡し、その父親が娘の無実の証明をしていくストーリーです。

序盤から、娘の花音の暮らしが描かれ、父親の充もちょっと横柄なところもあるキャラクターで描かれます。

工事中の道路を無理矢理通ろうとするところは、意外な伏線ともなっています。

花音自身も、学校でどのような立ち位置にいたのかというのも描かれ、家でも、別れた母親とも自分の居場所を探すようなところがあります。

花音自身の内面はギリギリわかるようなわからないような、そんなところがあります。

父と娘の2人暮らしをしているところの説明がないのが、ちょっとわからないのですが、離婚をした母が親権を持たなかったところはちょっとわかりません。

物語の発端はシンプルな話のように見えますが、その事件の特殊なところで、視点が父親の行動になっているように思われます。

娘が事故にあってしまうことで物語が変わり始めますが、事故のシーンが凄惨すぎるところもあり、このインパクトは、様々な人に深い影を落とします。

当然、現場にいなかった人物にはなおのことで、その事件の経緯が人により事実が湾曲してくるところもあり、この点が本作の興味深いところです。

芥川龍之介の小説「羅生門」のような印象も受けますが、そこまで湾曲した状況までは生まれません。

娘の惨劇を充は事後で見ているため、そこまでに至る経緯を正確に知ろうとします。

ただし、充に性格もあり、多少剛腕な感じで、事実を自分の理想のように進めようとします。

この点は共感しづらい点もありますが、その現場に居なかったという点と、不器用だったために娘との意思疎通がうまく伝わってなかったことがあります。

「俺、正直、充さんが親だったらキツイっす」

仕事仲間からもこう言われてしまうのはちょっと厳しいとも思いますが、そういう生き方をしてきた充は仕方のないところかもしれません。

「透明だったって」

これにはちょっとドキッとします。

物語は、死亡した花音を中心に「父親」「スーパーの店長」「自動車を運転していた女性」「学校の先生」と主体となる視点があり、それぞれが被害者であり加害者でもあるというやりきれないところが充満しています。

「今になって被害者ぶるのはズルいですよ」

本作の面白いところは、とある事件が発端となっていながらも、その事件の被害者と加害者の立場がそれぞれの状況により、都度変わっていくところにあります。

「俺の言い分は聞かないのか?」

この被害者と加害者の立場というのはどちらも正義のようにもみえ、状況によっては、急に窮地となってしまうところもあり、本作のメッセージ性を感じるところにもなります。

のり弁当を買ったのに、特製のり弁当ではなかったことに対して、急に切れてしまう点もあり、店長も神経的に病んでしまうのは、見ていても辛い感じがします。

そこから、展開が変わりはじめ、スーパーの店長のメンタル自体も変わり、事故の被害者家族も、そして、とばっちりを受けてしまったドライバーもそれぞれの視点から見れば、いずれも正義であり、誰しも加害者であるような印象を受けます。

「だめだよ、正しいことは正しいって伝えていかないと。」

「正しいとか、正義の強要は苦痛でしかないんですよ」

スーパーの店長を続けてきただけなのに、突然の事件と社会の視線に巻き込まれてしまったところにも店長のやりきれない、行き場のない思いがあり、観ていてキリキリします。

「許せないのは自分自身のくせに」

別れた妻はどの視点からもちょっと一歩おいたところから指摘をしているところがあり、このバランスが絶妙ではありますが、とはいえ、それもまた一つの視点ではないように思えます。

最終的には行き場のない気持ちが残ってしまう作品ではありますが、主観ではなく、客観を考えることのできる良作ではあります。

予告編

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