【日本映画】「波紋(2023)」を観ての感想・レビュー

【監督】
【出演】/柄本明/木野花/
【個人的評価】

【あらすじ】主人公 須藤依子は、新興宗教を信仰する女性。ある日、十数年前に失踪した夫 修が帰ってくる。修はがんになったの治療費を援助してほしいと頼み込む。

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筒井真理子の表現力が半端ない作品

荻上直子監督は、1994年に渡米し、映画を学び、帰国後、2001年『星ノくん・夢ノくん』で自主映画を制作しています。その後、2003年『バーバー吉野』で長編映画監督デビューをし、2006年『かもめ食堂』で高い評価を得ています。出産を経て、2017年『彼らが本気で編むときは、』で映画監督に復帰をし、以降、コンスタントに作品を発表しています。

筒井真理子は、大学在学中に第三舞台の公演に感銘を受け、第三舞台に入団し、多くの作品に出演しています。2016年『淵に立つ』で、多くの映画祭で賞を受賞し、映画やドラマなど多くの作品で活躍する女優です。

キャッチコピーは「絶望を笑え」となっています。

物語は、新興宗教を信仰する主人公が、十数年前に失踪した夫が突然帰宅したことをきっかけに、夫の病や息子の結婚、仕事での理不尽な問題で翻弄されていくストーリーです。

序盤からいきなり「波紋」とのタイトルとなり、クラップ(拍手)の音で物語が始まり、ダブルベッドで頭と足の向きをそれぞれ逆にした状態で寝ている依子がえ掛かれます。

ガーデニングのされた家に住んでいる依子は、夫婦間の関係に問題があるところをサラッと描いています。本作では、細かい説明していないところはありますが、状況説明だけでセリフ説明は極力省いています。

時代的には、東日本大震災を描いているところであり、原発の事故で放射能の危険性もサラッと描いています。

自宅にはねたきりの義理の父親の介護もあり、依子が介護をしています。セリフで説明をしていないところもあり状況や行動だけで物語が描かれます。夫の修は雨の日に急に失踪をしてしまいますが、その原因も細かく説明はされません。

後々の会話で説明されますが、急に時間が飛び、夫が疾走をし、家の雰囲気も変わってしまったところで、失踪した夫が帰ってきます。夫は、自分の保身のみで、疾走しており、自宅に帰ってきますが、ガンを患っていることはわかります。

当然、依子自体にはモヤモヤした感情があると思いますが、細かい説明はされず、淡々と状況が描かれていきます。

波紋とは人と人との関わり合いで生じる関係を波紋と見てているところでもあり、本作は、その関係をえがいています。

ガーデニングをしていた庭も、夫が疾走している間に枯山水となっており、描かれているものは水の波紋です。依子自体も、宗教に入信しており、どこか寄りすがるものを求めて入信しているような感じがあります。

枯山水の庭にはとても本作に重要な要素であり、感情をあまり表に出さない依子の思っていることが要所要所で描かれているところでもあります。

家に入ってくる隣の家の猫を追い払うときの拍手、玄関のくつの揃え方、洗濯物、水晶を触ったこと、パート先にやってくる半額を迫る老人などなど、生活にさまざまなイライラが生まれ、そのことから宗教にすがり、自らの生きる道を模索しているところも描かれます。

「夫がガンなんです、神様ならなんとかできますか?」

傷のあるトマトを半額にしろという客が「お客様は神様だろ?」という返しにはスカッとするところはあります。また、日々のストレスに対し、夫の使っているものにちょっといたずらをするところも、依子の感情が示されています。

中盤で息子が再登場し、彼女と一緒にやってきますが、ここでもまた依子の波紋を乱すようなところになってきます。本作の波紋の人間関係がとてもおもしろいところになります。

とにかく、依子を演じる筒井真理子の真っ当のように見えて心のなかに湧き上がる感情をグッと堪えるところの蓄積が終盤に向けての大きな伏線となっていきます。

依子自体は、息子の結婚相手にも辛辣なことを話しますが、そのやり取りもこの波紋で、依子の精神状況を乱していくところになります。

「ストレートに差別すんね、あんた」

宗教にのめり込んでいる主人公の行っていることは、水泳と庭の枯山水となっていきますが、本作の題名「波紋」とは、人と人との干渉が波紋となっているところでもあり非常に巧いイメージの演出となります。

終盤、疾走して舞い戻ってきた夫は亡くなりますが、依子の行動と、喪服と赤い傘、そしてフラメンコの関係、そして、枯山水と、明確なメッセージが込められていますが、細かい説明よりも、感じ取る形で、演出がされており、すべての説明や解釈は、観ている側に委ねられています。

そう、作品の要所要所で使われているクラップは、フラメンコのことでもあります。

難解といえば難解ですが、決してわかりにくい演出ではなく、むしろ、終盤のシーンで、全ての答えを示しています。なんとなく、深田晃司監督作品「よこがお」にも通じる気もします。

筒井真理子の表現力が半端ない作品でもあり、荻上直子監督の新たな作家性が結実している傑作かと思います。

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