作品紹介
【監督】今泉力哉
【脚本】城定秀夫
【出演】山本奈衣瑠/毎熊克哉/手島実優/井之脇海/伊藤俊介/中村久美/
【個人的評価】★★★★☆
【あらすじ】漫画家 町田亜子、週刊誌記者 広重、その同僚 真実子、亜子の編集者 松山と2組のカップルと不倫相手を通じて、4人の男女の関係を描いた作品
サブスクで観る
人間相関がヒトクセあり
今泉力哉監督は、映画専門学校 ENBUゼミナールの職員として、山下敦弘のワークショップアシスタントなどを経験。その傍ら、自主制作映画を作っていましたが、2010年の「たまの映画」で長編デビューをし、『パンとバスと2度目のハツコイ』などさまざまな映画を手掛けています。
脚本の城定秀夫は、ピンク映画やオリジナルビデオで助監督を務め、2003年『味見したい人妻たち』で映画監督デビューその後もピンク映画のみならず、多彩な作品を送り出している監督です。
山本奈衣瑠は、モデルとして活躍をし、2019年より女優としての活動をしています。
毎熊克哉は、3歳の時に見た映画『E.T.』で映画作りに関心を持ち、映画監督を目指していたが、自ら演じたほうが思い描いた芝居が伝わると、役者に転身、以降多数の映画賞に関わり、「遅咲きの新人」として注目されています。
キャッチコピーは「だらしないけど、本当の気持ち。4つの”好き”がこんがらがって-」となります。
物語は、漫画家と週刊誌記者のカップルが離婚を決め、飼い猫の分与について考えているうちに、猫がいなくなってしまう。2人の新しいパートナーを含めた4人が複雑な関係の中で、それぞれ選択していくストーリーです。
序盤から、離婚届を書いているカップルが描かれ、飼い猫のカンタを引き取るのをどちらにするのかを話し合います。
そのカップルは、漫画家と週刊誌記者の仕事をしており、2人とも浮気をしている状況になります。
その4人の関係と、亜子と広重の飼っている猫の親権をどちらにするのかで話し合いつつも、飼い猫がいなくなってしまうことで物語が淡々と進んでいきます。
猫のカンタが外に出かけてから、他の猫と出会ったりとかが描かれますが、猫自体は特に何も喋ることもないので、ある意味マスコット的な描かれ方となります。
過去を振り返りつつ、猫との出会いも本作のポイントではあり、時間軸が前後しながら描かれるところはありますが、特にわかりにくいというところはありません。
「あと、わたし先月から生理きてないんだよね」
カラオケで「あなたに会えてよかった」を歌うところの演出は、なんとなく曲のちからもありますが、この曲だからこその入り方があるのかと思います。
「ナプキン買っておいて」
「すみません、タバコ一つ」
「すみません、たばこいいです」
買おうと思ったタバコをやめてしまうところに、広重の気持ちに何らかの変化がこのシークエンスであったことがわかります。
「アガペーからエロース」
映画の試写会で「裸のピクニック」を広重と真実子が観ますが、この映画のセリフ自体がコント感があります。
猫のカンタがいなくなってしまうのですが、猫がいないことで、広重と亜子の間にちょっとだけ心が近づいているようにも思いますが、亜子自体は、カンタが戻ってくることを純粋に願っています。
グミを真実子が置いて、広重の気を気を惹こうとしますが、このシーンはとても印象的です。
猫がいないということで、亜子と広重の関係にちょっと変化があるような気がしますが、子は鎹(かすがい)という言葉もありますが、2人には飼い猫自体が2人を繋ぎ止めていることになっているようにも見えます。
カンタがどこにいるのかは中盤にわかりますが、もう一つわかることがあり、亜子と広重の関係にも関連するところになります。
中盤以降は、登場しているキャラクターの関連が描かれつつ、時間軸も多少前後しながら、各々のキャラクターの行動が描かれます。
「ぶっちゃけ、実家だし」
「わたしは結構できてよかったなぁとおもってる」
亜子の心情の吐露があり、広重もカラオケボックスから逃げ出そうと思っていたことを話すことで、2人の間が埋まるような雰囲気で描かれます。
カンタの居場所がわかったことで、亜子と広重、松山と真実子の4人で話すシーンが終盤の注目部分となりますが、約9分の長回しの緊張感はなかなか絶妙です。
「わたし、本当にヒロさんが好きで。」
4人はそれぞれ主張があるので、話が噛み合わないのですが、このシーンの着地点がどこになるのかを確かめたくなります。
今泉力哉監督と城定秀夫監督のタッグでこれほどまでに絶妙なバランスで制作されているところはまさしく本作の特長的なところでもあります。
とてもシンプルな物語のようでもありますが、人間相関がヒトクセあり、会話劇として成り立っている作品ですが、その関係性とそれぞれのキャラクターの立場を観ていくのが面白い作品です。