【日本映画】「Love Letter〔1995〕」を観ての感想・レビュー

【監督】
【出演】
【個人的評価】

【あらすじ】渡辺博子は、婚約者を登山事故で亡くしてしまい、その婚約者の卒業アルバムから、昔の彼の住所に手紙を送る。しかし、届くはずのない手紙が戻ってきたことから、奇妙な物語が始まる。

Love Letter

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揺るぎない名作

監督の岩井俊二は、TVドラマやPVで「岩井美学」と呼ばれるほどの熱狂的なファンを生み出すような独特な演出で注目され、「Love Letter」「スワロウテイル」「リリイ・シュシュのすべて」など話題作を多数作り上げています。

中山美穂は、幼稚園の頃から、芸能界に憧れ、中学1年のときに原宿でスカウトされています。雑誌『花とゆめ』の懸賞ページのモデルが初仕事であり、1985年「毎度おさわがせします」でテレビドラマデビューしています。その後、シングル「C」で歌手デビューもし、歌手としての地位を確立しながらも、こだわりのある作品に出演するようになり、安定したイメージのある女優です。

物語は、亡くしてしまった恋人宛の手紙の返事が来たことで、神戸と札幌の間で起こる学生時代と現在を通じた、藤井樹という人物のストーリーとなります。

それだけではなんのこともない説明ですが、本作は様々な要素が絡み合っており、一筋縄ではいかない、巧みな演出と展開が仕組まれています。

序盤は神戸の渡辺博子と函館の藤井樹の物語となっており、2つの場所で、役者としては同一人物の中山美穂が2人をそれぞれ演じています。

髪型もほぼ同じなので、よくよく周囲の登場人物を観ないと混乱しそうになりますが、かろうじて函館の藤井樹は風邪をひいているというところで、地味に分かりやすい点があります。

この2人の奇妙な文通が物語の発端となりますが、藤井樹という名前からの誤解があったことが徐々にわかります。

この説明も、函館と神戸の各々の視点から、その状況がとても分かりやすく紐解かれていきます。

本作が名作である理由はこの難しそうな人物相関をとても分かりやすく、かつ、説明調にならずに理解をさせていくところになります。

藤井樹の正体探しの中で生まれてくる、2人の異性同名という紛らわしいところが本作のキーとなっており、この部分をしっかり理解させるところが前半のポイントになっています。

登場人物が行動する場所も神戸と函館という距離の差をなくし、函館での物語に移行していく前半で、しっかりと世界観がわかるように仕組まれています。

函館が舞台となってからさらに複雑になってしまうストーリーですが、しっかりと分かりにくくなってしまう設定を説明してから、現在と過去の物語の描き方にシフトしていきます。

このプロットもとても素晴らしく、観ている側を困惑させるようなところをしっかりと順序立てて描いているところで、見失わずに物語を観られます。

病院での待合室の演出が素晴らしく、処置室のドアと現在と過去のドア、そして藤井家のドアといくつもの要素を詰め込み、藤井樹という名前の由来と、過去とのつながりの物語への移行が込められている巧みなところがあります。

病院に運ばれる父親の幻想と過去の物語の入り口なのかもしれません。

そしてそのあとにも、藤井樹と渡辺博子がすれ違うシーンがありますが、この演出も見事であり、出会っているはずではありながら、特定ができないというイメージの映像であり、もっと自然にできるところを、ドラマティックな印象もある演出には、明確な意図のあるところになります。

中盤最後の素晴らしいところは、渡辺博子が「なぜ藤井樹にプロポーズされたのか?」というところがあり、このシーンの会話は、何気ないように見えて、心情を明確に描かれていることで、深く印象に残るところです。

この段階を踏んでいきながら物語が進む中、藤井樹という人物がきちんと登場するようになってきます。

そして、ここまで描きながら、現代でのもうひとりの藤井樹は、「役者としては登場していない」ということで、欠けたような人物となっているからこそ、この物語の複雑ながらも、わかりやすいような演出意図があるように思われます。

そこからの展開は、まさしくパズルがきれいにはめ込まれていくような流れでもあり、まるで騙されているように、観ている側が没入していきます。

「あなたもだれか待ってるの?」

「おい、みえねえよ」

いままで登場してこなかった藤井樹という人物が明確になってくる浮き上がらせ方は、素晴らしいとしか言いようがありません。

なお、学校の写真を取るために使うカメラは、「SX-70 Alpha1」というポラロイドのカメラで、インスタントカメラの代名詞となったカメラです。

終盤では、本作の題名がなぜ「Love Letter」なのかが、理解できるところでもあり、しっかりと見ていく必要がありますが、藤井樹は、藤井樹が死んだことを知らないという要素が「サラッと」描かれます。

よくよく思えば、この記事を書くときに本作を見直して、はじめてこのことに気が付きました。

多数の登場人物の関連性や行動がわかっていながらも、その時々の登場人物の心情には、何度見ても発見があるようにも思います。

これは当然セリフとして描かれない要素だからであり、この「気持ちの動き」がしっかりと計算されているところでもあります。

「病院まで何分かかった?」

「なんでよりによって人生最後ちゅうときに松田聖子やったんやろ、あいつ松田聖子のこと思いっきり嫌らっとたんやで」

終盤での展開は、わずかにいままでの展開と違和感があり、最後まで進む展開で、深く関連する展開というわけでもありませんが、多分これも、明確な意図があるのでしょう。

「藤井樹の父親」と「藤井樹の死」という2つの「死」という不幸感の中でも、そのほとんどに幸福感が存在している点には、これもまた本作が物語として悲観的な印象が残らないところでもあります。

藤井樹が返せなくなった本とラストに登場する本は同一の本です。これがどういう意味なのかは、観てもらえればわかるのかと思います。

手紙というコミュニケーションツールのタイトルを冠しながらも、一通も書かれていないラブレターとも思えるこの仕組みにはトンデモなく考えられた物語でもあります。

さて、「この作品の本当の主人公が誰なのか?」この非常に簡単なようで、考えると違和感しか感じない要素に、本作がいつまでも理解できないながらも魅力しか持っていない作品であるのかと思います。

多くのことを書きましたが、揺るぎない名作である作品です。

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