【監督】塩田明彦
【出演】小松菜奈/門脇麦/成田凌/篠山輝信/松本まりか/マキタスポーツ
【個人的評価】★★★★☆
【あらすじ】インディーズで人気のあった女性デュオ「ハルレオ」は解散を決める。ローディ兼マネージャーのシマの3人で全国7都市を回る最後のツアーに出る。
わずかな機微から感情を読み取る必要がありますが、それがこの映画の醍醐味
塩田明彦監督は、学生時代より自主映画を制作しており、黒沢清監督の助監督として参加後、初長編映画『月光の囁き』をはじめ、個性的な作品を作り出している監督です。
小松菜奈は、モデルとして雑誌で活躍後、中島哲也監督の「渇き」で映画デビューしています。2016年にはシャネルのブランドアンバサダーを務めたことのある女優です。
門脇麦は、ニューヨーク生まれの東京育ちで、宮崎あおいや蒼井優の作品を観て、役者を志しています。一癖ある映画に数多く出演しており、個性的な若手女優としては、個人的に非常にツボな役者です。
主題歌「さよならくちびる」を秦基博、挿入歌「誰にだって訳がある」「たちまち嵐」をあいみょんが提供しています。
物語の冒頭のタイトルが出るまででこの物語の結末までが説明される。
そう、あらかじめ物語の筋は示されているのです。その流れから、過去を描きつつ、現在を描くように、ハルレオの経緯がわかるようになっています。
時間軸がスパッと変わるところがあり、気を抜いてみているとおいていかれてしまうところがあります。
時間軸を判別するにはレオの髪型が徐々に短くなっていくので、多少分かりやすくなっています。
冒頭から冷え切ったデュオの関係となっており、なぜそこまで冷え切ってしまったかが、わかるようになっています。
ハルとレオとシマの関係はそれぞれ一方通行の感情があり、その不協和音がこの3人の関係を示すところになります。
門脇麦のタバコの吸い方がとても格好良い。タバコを取り出す仕草から、サマになっているのだ。
タバコの扱い方は小道具として非常に難しいところもある。慣れた感じを出すというのは本当に難しい。このあたりのちょっとしたところも門脇麦の恐ろしいところなのかもしれない。
そしてこのタバコという小道具は、くちびるという言葉を示すところあり、紫煙ということで、本心を隠しているメタファーにもなっていると思われます。
同じくリンゴを丸ごと食べているところも、知恵の実の意味合いがあると思われ、知恵を身につけているところでもあり「バカでいいじゃん」という要素の裏返しにもなっているように見えます。
ハルの家でカレーを食べるシーンがありますがここのカット割には注目。
ノンカットで長回しとなるところがあり、小松菜奈が涙を流しながらカレーを食べるまでは、小松菜奈の演技の見せ所でもあります。
二人の歌は、演技であるとしても、非常に心地よいハモリ方とメロディの良さの完成度が高いです。
この曲たちは映画のために作られたとはいえ、しっかりと販売できるような完成度で、映画の中でもシッカリと耳に残ります。
ツアーが現在進行形で進む中、過去のシーンを描いているところで三人の関係がわかるのですが、明確な理由はどこか描かれておらず、そこにこの映画の深みがあります。
淡々と物語が進んでいるように見えて、描かれていないメッセージがあり、映像の行間を読む必要があります。
特にハルの感情には、説明がないと理解が難しいところがあり、これは行動で示されるところではなく、作曲している歌詞の中に込められているところがあります。
完成度が高い曲が提供されているというのはこの部分で、一般にリリースされる曲ではなく、映画のテーマを込めたハルの気持ちであります。
あいみょんと秦基博は、映画の脚本に絡んでいると考える方が自然です。
主となる登場人物が3人でもあり、この三人の揺れ動きを、様々なことに代弁させている映画ですので、複数回観ることで理解は深まります。
ラストの展開ももともと冒頭の時点で予測できる布石が引かれており、意外性ではなく全ては緻密に計算された3人の言動と代弁で成り立っています。
わずかな機微から感情を読み取る必要がありますが、それがこの映画の醍醐味でもあります。