作品紹介
【監督】是枝裕和
【脚本】坂元裕二
【音楽】坂本龍一
【出演】安藤サクラ/永山瑛太/黒川想矢/柊木陽太/高畑充希/角田晃広/中村獅童/田中裕子/
【個人的評価】★★★★★
【あらすじ】舞台は湖のある郊外の街。そこで暮らす人々を描いた物語。学校でとある喧嘩が起こるが、その喧嘩で起こったことはそれぞれの証言が異なり、徐々に大きな問題となっていく。
サブスクで観る
一度見たあとに、再度見直すと、それぞれのキャラクターの事情がわかるところもあり
是枝裕和監督は、ドキュメンタリー番組を手がけ、「幻の光」で監督デビューをし、第52回ヴェネチア映画祭でオゼッラ賞を受賞しています。ドキュメンタリーの手法を取り入れつつ、計算され尽くした作品を数多く輩出する卓越した演出力のある監督です。
脚本の坂元裕二は、「第1回フジテレビヤングシナリオ大賞」を19歳で受賞し脚本家デビューをしています。1991年「東京ラブストーリー」の脚本で人気となるも、1996年に仕事の在り方に疑問を感じ休養をしています。その後、テレビドラマ『きらきらひかる』を観たことをきっかけに、再度脚本を執筆するようになり、社会問題を取り入れた中身のある作品を多く手掛けています。『それでも、生きてゆく』『最高の離婚』『問題のあるレストラン』『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』『カルテット』『大豆田とわ子と三人の元夫』 『初恋の悪魔』を手掛け、2021年『花束みたいな恋をした』ではとても良い脚本を仕上げています。
安藤サクラは、父に奥田瑛二、母が安藤和津、姉が安藤桃子という家系で、高校時に女優の道に進んでいます。2007年『風の外側』で映画デビューをし、2009年「愛のむきだし」で存在感のある演技で評価されています。2011年『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』で第84回キネマ旬報ベスト・テン助演女優賞を受賞をし、その後も様々な作品で圧倒的な評価をされています。『かぞくのくに』『百円の恋』『万引き家族』など、話題作に出演している女優です。
永山瑛太は、1999年にモデルデビューをし、2001年『さよなら、小津先生』で俳優デビューをしています。その後、2005年『サマータイムマシン・ブルース』で映画初主演をし、以降テレビや映画で活躍しています。
本作の音楽は、坂本龍一が担当しており、映画音楽を多数手がけてきていましたが、映画音楽として「怪物」が遺作となります。
物語は、湖のある郊外の街で、学校内でのケンカをきっかけに、学校と生徒、親たちの間でトラブルが起こる。その問題も各々証言が異なる。ある嵐の朝、子どもたちが忽然と姿を消すストーリーです。
序盤から、ビルの火事の現場に消防車が向かうシーンが描かれ、その火事の状況が非常におおごとになっている状況がわかります。
「豚の脳を移植した人間は、人間?豚?」
シングルマザーの麦野沙織の視点で当初は物語が進んでいきますが、本作の中心人物は、麦野沙織・保利道敏・麦野湊の3人でもあり、それぞれの視点が描かれることでそれぞれの人物の正義がわかってきます。
教師の保利自体もちょっと情緒不安定感はありますが、これもまた正義な視点もあり、序盤の展開は、麦野沙織側の正義が描かれるので、とても気分的にモヤモヤするところが残ります。
このモヤモヤ感が徐々に晴れていくような演出は見事でもあり、正義が通らないのはなぜなのかがわかる流れです。
「ハイを、エエに変えてって言ったんじゃないよ」
「私が話しているのは人間?」
麦野沙織自身も演じている安藤サクラのキャラクターがあってことでのことであり、麦野沙織に感情移入しやすい序盤としては、この展開の収拾がどのようになるのかが、本作の興味惹かれるところです。
「実際にやったかはどうでもいいのよ」
校長の対応はまったくもって血の通わないような言動でもあり、麦野沙織が感情的になっているのとは対照的でもあり、この作品の一つの印象でもあり。
「あなたが、学校を守るんだよ」
校長のこの一言は非常に怖いところです。
麦野の話になってきてから、過去に起こっていたことの事実が徐々にわかり始めます。
その状況を観ていくととても優しいところで過ごしているのに、そうではないということもわかり、芥川龍之介「羅生門」のように状況によって、善人にも悪人にも受け取れるように見えるのは、とてもすごい切り口の作品だとは思います。
「誰でも手に入らないものを幸せっていうの」
校長先生の言動の理由も後々わかってきますが、同じシーンを多角的に見るとそれぞれの人物に異なる印象を持つというのはとても上手い演出です。
感想を書きづらい作品でもありますが、実施に観てもらうと、わかりやすい内容と、上手い説明の仕方であり、演出力でしっかりと構成されている作品のため、納得できる作品です。
一度見たあとに、再度見直すと、それぞれのキャラクターの事情がわかるところもあり、また一味違う見え方のある不思議な作品でもあります。