【監督】赤堀雅秋
【出演】三浦友和/南果歩/新井浩文/若葉竜也/田中麗奈/
【個人的評価】★★★★☆
【あらすじ】主人公 葛城清は、父親から受け継いだ金物屋を切り盛りし、マイホームに住む4人家族の父親。理想な生活と家庭を築いていたが、21歳となる次男の稔が8人を殺傷する無差別殺人事件を起こし死刑囚となる。そのことで一家は、大きく変わってしまう。そして、ある日、稔と獄中結婚をした星野という女性が現れる。
非常に後味の悪い映画でもありますが、この後味の悪さに隠れた当事者とその関係者の環境ということを考えてしまう作品
・赤堀雅秋監督は、1996年に劇団「SHAMPOO HAT」を旗揚げし、多くの作品を手掛けます。2013年に『一丁目ぞめき』で第57回岸田國士戯曲賞受賞し、本作は、「その夜の侍」についで、映画監督作品2作目となります。
・三浦友和は、1972年『シークレット部隊』で芸能界デビューをし、二枚目は俳優として絶大な人気があり、多数の映画でヒットをする。共演者でもあった山口百恵と結婚をし、その後、NHK大河ドラマ『独眼竜政宗』で伊達成実を演じ、硬派軟派のいづれの個性を持つ俳優として定評があります。
・物語は、一家の次男が起こしてしまった事件で、壊れてしまった家族を描いたストーリーです。
・序盤は、葛城家で過ごしている父親と、裁判所で死刑を言い渡される次男のシーンから物語が始まります。
・殺人者を出してしまった葛城家ではあり、様々な場所にいたずら書きがされ、昼間でもカーテンを締めているようなそんな家となってしまっています。
・その後、死刑囚となった次男 稔と獄中結婚をした星野が登場しますが、この獄中結婚は、死刑反対をするために獄中結婚を希望しますが、稔とは意思疎通がほとんど通わず、これもこれでギリギリするような内容になっています。
・「どうか、こころをひらいてくれませんか?」
・「おっぱい見せてくれない」
・これだけ会話が成り立たないのもやはり、色々なところに壊れたところが出てきます。
・多少時間軸が前後しながら物語が進んでいきますが、よく観ていれば物語を見失うことはありません。
・唯一、家庭を持ち、順調な生活だった兄も、様々な苦労が強いられてしまいます。面接のときに名前が言えないという点でかなりのプレッシャーでもあります。
・中盤で、母親と弟が2人ぐらしで住んでいるアパートのシーンがありますが、このときの母親の言動にはちょっと狂気を感じます。通常の怒りや叫びの狂気ではなく、精神的に壊れてしまっている狂気を感じます。
・基本的には、父親の横柄なところがことの原因ではありますが、右頬のあざのある母親がじっと父親の話を聞いているところには、やはり壊れたところしか感じません。
・大きく人生が変わってしまった出来事には自らの経験と照らし合わせることはできませんが、絶対に自分には起こらないとは言い切れない恐ろしさはあります。なお、殺人を犯してしまうという点でも、事故に巻き込んでしまうなど、故意に起こってしまうこともあるということで、起こらないとは言い切れないということになります。
・職を失い、毎日公園で時間を潰し、子供二人がいる家庭にもいえず、結果的にある結末にたどり着きますが、これも、父親や葛城家の壊れゆくさまを淡々と描いています。
・特長的なのは、決定的な演出をせず、状況をさらっと描くだけで、物語を進めていきます。この点の鋭い演出は、ドキッとします。
・遺書が出てくるシーンがありますが、こちらもドキッとするところがあり、この状況だけで、様々なことが含まれた見せ方でもあります。
・終盤に差し掛かりながら、本作の究極な問題が発生しますが、その問題自体は、実際に起った事件をモチーフに映画化しているところでもあり、本来であれば、この事件自体が本筋ではありますが、本作では、その事件で影響を受けた一家の問題となります。
・「もう、だあれも戻ってこないんだよ、あの家には。」
・その上で、新居新築の際の過去の内容となります。そこで、序盤でもすでに描かれていた、みかんの苗木が説明されます。この伏線は非常に興味深いところになります。
・終盤、人がいなくなってしまった葛城家で、父親と星野の対話がありますが、この時点で、星野の感情がどこにあるのかを考えるのがポイントです。
・そして最後に父親 清が一人で演じるシーンとなりますが、一切セリフもナレーションもなく、一見意味が理解しにくいところがありますが、本作で言いたいことは、序盤の時点ですでに多く語られているようにも思います。
・非常に後味の悪い映画でもありますが、この後味の悪さに隠れた当事者とその関係者の環境ということを考えてしまう作品です。