作品紹介
【監督】深田晃司
【出演】木村文乃/永山絢斗/砂田アトム/山崎紘菜/嶋田鉄太/三戸なつめ/神野三鈴/田口トモロヲ/
【個人的評価】★★★★☆
【あらすじ】主人公 妙子は集合住宅に住む女性。向かいの棟に再婚した夫の両親が住んでいる。夫 二郎と息子 敬太と3人家族で生活をしているが、ある日失踪した敬太の父 パクが現れる。
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LOVELIFEという題名とこの曲の意味が非常に色濃く印象的に残る素晴らしい演出でまとめられています
深田晃司監督は、映画美学校で、2004年『椅子』を長編自主映画として初監督をし、その後、2005年に平田オリザ主宰の劇団青年団に演出部に入団し、映画祭を青年団俳優とともに企画開催しています。『ほとりの朔子』『さようなら』とさまざまな作品で評価され、特に2016年『淵に立つ』では、第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門審査員賞を受賞しています。
木村文乃は、2004年『アダン』のヒロインオーディションで選ばれて、女優デビューをしています。その後、2006年『風のダドゥ』で映画初主演をし、以降様々な作品に出演しますが、2007年頃より持病で活動を停止し、2010年に再度スカウトされ、再デビューをしており、映画やドラマで活躍しています。
永山絢斗は、兄弟がともに俳優をしており、2007年よりテレビドラマ、2008年「フレフレ少女」で映画に出演しています。2010年「ソフトボーイ」では初主演を務め、第34回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞しています。テレビや映画に活躍する俳優です。
主題歌は、 矢野顕子の「LOVE LIFE」となっており、この曲は本作のモチーフとなっています。
物語は、再婚をして家族3人で生活をしていた主人公のもとに、前の夫が現れ、3人家族だった生活に変化が起こり始めるストーリーです。
序盤から妙子の住む集合住宅の自宅でパーティの飾り付けをしているシーンからはじまります。周辺の住民もパーティの協力をしてくれているようで、サプライズの練習もしてくれています。
本作は、その集合住宅での物語となり、登場人物が多い印象でもあります。
息子の敬太のお祝いでもあり、敬太自身、手話ができることをなにげにあらわしています。
妙子と二郎の夫婦ですが、敬太のパーティに二郎の両親が訪問してきますが、二郎の両親と妙子の間には、あまり良好な感じではないところが描かれます。
二郎と妙子は、二郎の父にサプライズを用意していており、65歳の誕生日を祝ってもらえます。そこから、集合住人の仲間も呼び、パーティとなりますが、そこで事件が起きます。
とある家族の日常を描いているような淡々とした流れですが、演出がされていないような流れでもあり、だからこそ、深田晃司監督の巧みな演出力でもあります。
事件が起きた浴槽をジッと映しながら、カラオケで楽しんでいる風景が非常に悲惨な事故の傍観者として観ている側に映ります。この演出はすごいです。
その後、この事故に際して、取り調べがありますが、そのときに二郎と妙子の関係性と息子の敬太の関係がわかります。
妙子は再婚であり、敬太は連れ子というところで、二郎と暮らしていましたが、二郎の両親の都合で席は入れておらずの中での事故となります。ここで難しいのが、妙子が思う敬太への気持ちと二郎が思う敬太への気持ちはちょっと違うところではありますが、これはそれぞれの視点で考えるとわかります。
敬太の写真は二郎は妙子と過ごし始めてからのものしかなく、それ以前の写真は前の旦那との思い出となっているわけです。敬太は6歳で事故死をしていますが、妙子と二郎が敬太に関わった時間は全然異なります。特に説明されるわけではないのですが、状況でわかるようになっています。
敬太の葬儀に敬太の父親が喪服も着ないで訪れますが、ここで、妙子と二郎と敬太の本当の父親の関係がえがかれていきます。
ここでさらに妙子の事情がわかる演出となっていますが、セリフでの説明はなく、ちらっと映るものでわかる演出となっています。妙子の元旦那は手話で会話するということで、喋れないか耳が聞こえないということになりますが、しっかりと序盤で布石が描かれています。こういう演出は深田晃司監督らしいです。
二郎と妙子、敬太の父親 パクの関係で物語が描かれていきます。その中でも、敬太が亡くなってしまった浴槽には、近寄りがたいトラウマがあるのがわかり敬太を失った心の傷が深いことがわかります。地震の際に妙子が何を抱えていたのかも、重要なところです。
「君は 啓太の死を乗り越える必要なんてない」
「でも 君は敬太を忘れてはだめだ 絶対 それが君の人生にとって必要なことだから」
パクはちょっと迷惑キャラにも見えますが、韓国までつきそっていくことにパクに対しての何らかの気持ちがわかります。
妙子に感情移入するととても疎外感を感じていくところを感じますが、他のキャラクターもそれぞれなんらかの事情があり、妙子だけの視点で観ているとなにかしら重要なことを見逃してしまう気もします。
終盤、妙子は自宅に帰ってきますが、部屋の中に光が差し込むのは、カラスよけのCDを吊るしているからです。オセロの対戦者からオンライン対戦の依頼がありますが、ここに息子の痕跡が残っていたことで、再び敬太のことを思い出します。
印象的な集合住宅のロケ地はここになります。
「人間はひとりでも愛することができるのか」これは、監督がインタビューで話していたことであり、終盤の二郎と妙子の会話に普段の何気ないコミュニケーションに思えますが、このときの演出がとても重要です。LOVELIFEという題名とこの曲の意味が非常に色濃く印象的に残る素晴らしい演出でまとめられています。
様々なことが詰め込まられた作品ですが、さまざまなことが詰め込まれていることに意味があり、そのことが「LOVELIFE」でもあるように思います。