作品紹介
【監督】高橋賢成
【出演】阿部倫士/松崎岬/佐藤有紗/奥田誠也/三森晟十朗/三枝百合絵/広瀬慎一/名取佳輝/森真人/
【個人的評価】★★★★☆
【あらすじ】主人公 浩はちょっと気の弱い高校生で、中学時代の友人同士で起こった理恵の強姦事件に何もできなかった過去があった。成人し同窓会で、事件に関係していた達也に出会う。
サブスクで観る
制作した監督の年齢が問題ではなく、鋭い観察力と演出力のある見事な作品
高橋賢成監督は、城西国際大学メディア学部を卒業しており、その際の卒業制作として本作が作られており、本作が長編映画初監督作品となります。
本作は、城西国際大学メディア学部の四期生による卒業制作作品となっており、登場人物やスタッフは全員大学生で制作されています。
第31回東京国際映画祭の日本映画スプラッシュ部門に招待されており、高橋賢成監督は、史上最年少の22歳で招待されたことになります。
第19回ニッポン・コネクション日本映画祭のニッポン・ヴィジョンズ部門で最高賞となる審査員賞を受賞しています。
物語は、高校生のときに友人が強姦事件に遭い、その現場で何もできなかった主人公が、成人をし、その事件のしがらみから、とある事件をさらに起こしてしまい、12年の年月を経て、向き合っていくストーリーです。
序盤から、その事件についてのシーンの断片が描かれ、その冒頭から、一度時間が変わり、おとなになった浩が描かれますが、電車の線路脇弁当を食べているというところは、何かしらの事情を感じるところがあり、初見からは、何を描いているのかが理解が難しく、再度観ることで理解ができます。
物語としては主人公 浩の目線で描かれていくところがあり、中学や高校時代でよくあるヤンキー的な関わりのあるところで、妙に言い返せない関係性が問題の原因でもありますが、こういう妙な力関係のリアル感があります。
理恵が達也と健吾のところに向かうときの傘をさすというホンの些細なことの行動も、浩目線ではなく、観客目線の誘導が秀逸で、こういう一歩引いたような演出には鋭いところがあります。
その後、成人してからは、力関係も対等となってくるのか、とある事件が起こります。
浩にとっては、それが正義であり、その正義感と過去とのしがらみという点での行動となるわけですが、やはり、相手も相手でクズであるというところは、成人式のエピソードなどを重ねていることで、描かれます。
本作の時間軸は、成人し出所後の浩の時間軸で描かれ、過去を振り返るという流れで描かれています。これも特にシーンの変わり目で時間が描かれないので、理解がむずかしいところがあります。
「まあ、いろいろあるんだなぁ、大人には。」
この前後での流れで、新聞受けに「いつもご苦労さまです」と書かれていますが、「ありがとうございます」と返答するところも、浩のキャラクター性が描かれています。
登場人物は何人か出てきますが、学生時代と成人してからと、配役は同じながらも見た目の印象が多少変わるので、その部分はきっちり見ておくほうが良いと思います。
同窓会のシーンで、その学生のときの関係性が続いていながらも、どこかしら変化のあるところがあり、同じような心のトラウマをえぐるような気持ちを感じてしまいます。
このときの飲み会の話し声が聞こえている声が、どのタイミングで消えたのかも、秀逸な演出です。
時間経過がわかりにくい演出ながらも、よくよく観れば理解は出来、大きな壁のあるシーンも、その壁がなんであるのかがわかるように演出されています。
多くの事柄を説明口調で説明せず、演出のみで描くところには驚きがあります。
タバコの自動販売機のtaspoを見せるだけで、時間の流れを描いているわけで、この時間の流れの示し方はよくできています。
東日本大震災も描かれますが、これも、地震自体が描かれず、その結果だけが描かれるわけですが、その出来事がきっかけで物事が進むということも出てきます。
「それはなにに対してのゴメンなんだよ」
「俺はただ、終わらせたいだけなんだよ」
新聞の不着のシーンの流れも唐突ではありますが、しれっと震災で避難してきたという理由付けがあり、行方が知れなかったところからの細かい説明がとんでもなく違和感のない流れで物語を描いています。
この流れの脚本自体はセリフだけ読んでもなんだかわからないのかもしれませんが、実際の演技も加わると理解ができるわけで、関心します。
残された人々にはそれぞれの気持ちがあり、その行ってきたことに何かしらの視点がありますが、それも、くどくならないギリギリのところで、説明はされています。
最後のシーンはしっかりと観ていなければならず、浩は数回ふりむいています。このシーンは長回しとなっていますが、どのように撮影したのかはちょっとわかりませんが、物語の重要なところではあります。
行間を読むということが非常に多い作品ではありますが、その中に、強姦事件で抱えてしまった心の闇があり、その中でどうしていくのかというところが本作の本筋ではあります。
制作した監督の年齢が問題ではなく、鋭い観察力と演出力のある見事な作品となります。
初見では理解ができないのかもしれませんが、ながら観のようなことをしなければ普通に理解はできますので、そのしっかりとした演出を感じてください。