作品紹介
【監督】大九明子
【出演】萩原利久/河合優実/伊東蒼/黒崎煌代/安齋肇/浅香航大/松本穂香/
【個人的評価】★★★★★
【あらすじ】主人公 小西徹は、冴えない日々を送っている大学生。ある日、女子大生 桜田花に出会い意気投合をし、「毎日楽しいって思いたい。今日の空が一番好きって思いたい」と言った言葉が、亡き祖母の言葉と同じだった

そういう不完全なところも含めて、傑作としてしまってよいのかなぁと
大九明子監督は、タレントや女優として活動後、『意外と死なない』(1999年)で映画監督デビューをしています。「勝手にふるえてろ」なども手掛けた監督で、一癖ある演出が特長の監督です。
萩原利久は、2008年レゴのCMで子役デビューしており、その後、2019年『電影少女 -VIDEO GIRL MAI 2019-』でテレビドラマ初主演をしています。2009年「劇場版 炎神戦隊ゴーオンジャーVSゲキレンジャー」で映画初出演をしており、2016年「イノセント15」では映画初主演をしています。映画やテレビ、舞台と幅を広げた活躍をしている俳優です。
河合優実は、2019年に芸能界デビューをし、『インハンド』でテレビドラマに初出演しています。その後、2019年「よどみなく、やまない」で映画初出演をし、2020年「透明の国」で初主演をしています。『サマーフィルムにのって』『由宇子の天秤』での演技で評価されており、2022年には8本と非常に多くの作品に出演しており今後の活躍が期待できる女優です。
2024年・第37回東京国際映画祭コンペティション部門出品
物語は、冴えない日々を送っていた主人公の大学生が、とある女子大生と出会い意気投合をするが、2人二とある出来事が起こってしまうストーリーです
序盤から、雨の中をヘッドフォンで歩いている女性と、傘をさして歩いている主人公の小西徹が描かれます。
徹と花は同じ大学に通う大学生で同じ講義を受けていますが、どちらも大学では特に誰ともつるむことなく、マイペースな感じがわかります。
徹は親友がいますが、学内では日傘をさして人と距離を取っているような感じもします。
主に、徹と花の物語でもありますが、もうひとりさっちゃんというキャラクターも出てきます。大学は異なりますが、徹のアルバイト先の仲間で、徐々に徹との関係がわかってきます。
「私と一緒やったら、楽しいに決まってんねん。」
さっちゃんのこのセリフも、後々響いてきます。
徹のアルバイト先は、銭湯の掃除ですが、どうも各シーンの場所を見ていると、距離感がバラバラなところがあり、演出的にはもう少し場所を特定しないようなほうが良かったのかもしれません。
徹の学校は、大阪の関西大学で、アルバイト先は、京都にある銭湯でもあり、アルバイトをするにしてもさすがに交通費も距離も非常に遠いともろでもあります。
徹と花とさっちゃんの3人のキャラクターがだいたい見えてきたところで、徹と花が徐々にきっかけを作り、意気投合していくかのような演出になってきます。
「すみません、小西徹です」
このシーンの2人の演出はちょっとこだわりがあるようなところもあり、お互いカメラサークがつながってくるカメラワークはあまり見ない演出でもあります。
また、雨の音など様々な環境音に特長付けをしているところもあり、耳に訴えているなにかがあるような気もします。
「でも、全方位的に無敵でありたいんですけどね」
大学生の大学生らしい生活からの物語でもあり、この距離感や会話や自由なところは非常に良い感じでもあり、主人公の徹視点で学生生活になにか変化が起こり始めているところが描かれていきます。
この空気感を理解できるような学生生活を送ってきた人には非常に刺さるのかと思います。
段ボールを担いでいたのは本当は寝そべる予定だったんだなぁと思います。とはいえ、雨上がりのベンチに段ボールを使っているので、それはそれでよかったのかと思います。
河合優実の大阪弁は意外としっくり来る感じで、もともと東京生まれ東京育ちの割にはしっかりと大阪弁のイントネーションが掴めていると思います。
舞台となっている大学は関西大学でもあり、構内を歩きながら、徹と花が会話していくところも、学生時代であれば、こんな経験を思い出すような人も多いのかと思います。
「驚異的」
中盤までは、大学生の学生物語なところではありますが、すべて前半で様々な仕掛けを散りばめており、初見ではわからないのですが、この伏線とも言えるつながりとシンプルながらも巧妙なストーリーは、本作のすごいところです。
「もし私達の会話がぎこちなかったら、もう少し違ってたかも」
「助走なしでは、あの言葉は伝えられへんわ」
中盤で告白シーンがありますが、この告白シーンは演出がとんでもなくすごいです。このためにこの作品を観る価値があると思います。
ものすごく長いシーンですが、むしろその長さはずっと続いても良いくらいに、なんとも言えない気持ちが出てきます。
徹は、花のことが気になり、さっちゃんは徹のことが気になっている図式ではありますが、もうヒトクセ人間関係にヒネリがあり、シンプルなストーリーながらも飽きさせない構成があります。
中盤以降にも物語が続きますが、本作はなんて意地悪な話なんだろうとも感じてしまいます。さすがに世界の狭さを感じるとしか言いようがないです。そして、リアリティと現実感を無視したようなところもありますが、それが良いのかもしれません。
本作を観るにあたって、主人公に感情移入してはいけない作品かと思います。それを踏まえて、本作を鑑賞すると、この作品の良さがわかるような気がします。
終盤、河合優実の独白もあり超長いセリフがありますが、カメラワークのズームについては、ちょっと映画的な点で考えるとありえない演出でもあります。
意味がある意味がないという点よりも、どこか感性だけで作品を作っているのかなぁと思うのですが、感性で辿られる作品には良し悪しの違いで傑作にも駄作にも触れてしまうのかなぁと思います。
本作は、伏線というよりも、何が起こっていたのかの答え合わせがあるような作品でもあり、観終わったあとにもう一度最初から観たい作品です。
原作が、「ジャルジャル」の福徳秀介でもありますが、ジャルジャルのコントのような作品ではあり、演出の振れ幅的には人を選んでしまうところがあります。
なお、本作の落とし所が個人的には納得できない点があるのですが、そういう不完全なところも含めて、傑作としてしまってよいのかなぁと思います。
予告編
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