作品紹介
【監督】小林啓一
【出演】池田愛/小篠恵奈/藤原令子/高山翼/西田麻衣/渡洋史/桃月庵白酒/
【個人的評価】★★★★☆
【あらすじ】主人公 川島いづみは、高校1年の学生。ある日、30万円の大金と学生証の入った財布を拾う。その財布の持ち主は、天下り官僚の息子で、イケメン男子だった。
サブスクで観る
モノクロ版のほうが情報過多にならずに、作品の本質がしっかりと見えてくるような気も
小林啓一監督は、TV版食いの制作を経て、ミュージックビデオやCM、テレビドラマを手掛け、2012年「ももいろそらを」で長編映画デビューをし、「日本映画の新鮮で革新的な監督の誕生」と評されています。
池田愛は、子役としてCMや教育番組に出演し、2008年「受験のシンデレラ」で映画デビューをしています。テレビや舞台、映画と活動の幅を広げている女優です。
第24回東京国際映画祭「日本映画・ある視点」部門最優秀作品賞、第50回ヒホン国際映画祭グランプリ、第28回高崎映画祭新進監督グランプリを受賞をはじめ、数多くの映画賞で上映されています。
物語は、主人公の高校生が、ある日、大金の入った財布を拾う。その持ち主は学校内のイケメンではあったが、そのことで、事態が思わぬ方向に進んでいくストーリーです。
序盤から、いづみが財布を拾い、その財布の持ち主のことを調べます。
「まあ、いずれその順番がわたしに回ってくんだけどさ」
主人公のいづみはどこかしら社会の構造を知っているようなそんな子でもあります。
「そのちっぽけな薄汚いプライド、わたしがまもってやるよ」
高校生のいづみは、どこか普通の高校生とは視点が違うところがあり、学生ながらも社会の構造や世渡り的なところをわきまえているところもあり、そのキャラクター性で本作の流れをグイグイ引っ張って行くところはあります。
いづみは新聞の記事を自己採点することが趣味でもあり、その点でも物事を見る目線が他の人と違うところもあり、とはいえ、どこか高校生の持つ世界からちょっと足を踏み出した程度の価値観が強く、そこに青春の青臭いところを感じます。
いづみの服装は、高校生の割には妙にズレた私服だなぁとは思います。
「15万以上の価値はあるんですけど」
「自分の親は何をやっているのがなにかわかっていますか?」
「悪銭といえど、金は金」
喫茶店でそ~っとレシートを相手の方に寄せるのが地味にそのキャラクター性がわかります。
靴下の長さを伸ばしたし、短くしたりと、いづみの言動に妙にリアリティな感じもします。ここになにか心情がこもっているのかと思います。
「ごめんなさい蓮見様は?」
拾ったお金をついつい使ってしまいその工面のために奔走していきながら、物語の本筋とは別の事柄が出てきます。
お金や友情、性別感や死生観など、詰め込み過ぎなテーマに見えますが、これが自然と咀嚼でき、ちぐはぐさを感じないところは、多感な女子高生の主人公の行動とうまく噛み合っているからかもしれません。
「これさぁチャットするとお金もらえるの」
お金を返すというところでどうやって工面するのかというところもありますが、新聞というネタから広がる物語の枝葉も構成が上手いところに思います。
「じゃあ、そのサポートを見せてもらえます?」
この切り返しはちょっと頭いいです。
終盤の印刷屋のおっさんの会話は何気ない会話ながら、いずみの気持ちで考えると物事の関わりに複雑な気持ちが交じるような気がします。主人公視点の物語で作られているので、いづみの気持ちはよくわかります。
の感情移入のよりもさらに斜め上の感情でいづみが行動をするので、本作の面白みがあるのかと思います。
「一つ聞いていい?純愛だった?」
財布の持ち主の佐藤のキャラクター性も掴みどころはないのですが、これもまた思春期の特長的なところかもしれません。
本作の題名「ももいろそらを」は、初回上映版のモノクロ映像の場合、とあるシーンに印象的に見えるところでもあり、モノクロなのに色が見えるような感じもし、このタイトルの秀逸なところも感じます。
本作は、カラー版とモノクロ版がありますが、観てもらうならモノクロ版をオススメしたいところです。モノクロ版のほうが情報過多にならずに、作品の本質がしっかりと見えてくるような気もします。
他愛のない日常を描きながらも、高校生の生活圏の中でいろいろな些細な出来事に奔走し、振り返ってみるとなんとなくじんわり来るまとめ方はよくできた内容に思います。