作品紹介
【監督】今泉力哉
【出演】有村架純/豊嶋花/嶋田鉄太/van/若葉竜也/佐久間由衣/長澤樹/市川実和子/鈴木慶一/根岸季衣/平田満/リリー・フランキー/風吹ジュン/
【個人的評価】★★★★☆
【あらすじ】主人公 ちひろさんは、海辺の街にある弁当屋で働いている元風俗嬢。街の人と別け隔てなく接する彼女は、ホームレスや小学生、女子高生と出会うことで、生き方に影響を与えながらも、自分自身も変わっていく。
サブスクで観る
実際にははじめから、ちひろさんは存在していないんじゃないか?と思ってしまうところも
今泉力哉監督は、映画専門学校 ENBUゼミナールの職員として、山下敦弘のワークショップアシスタントなどを経験。その傍ら、自主制作映画を作っていましたが、2010年の「たまの映画」で長編デビューをし、『パンとバスと2度目のハツコイ』などさまざまな映画を手掛けています。
有村架純は、2010年に『ハガネの女』でドラマ初出演をし、その後、連続テレビ小説『あまちゃん』で小泉今日子演じる主人公の母親の若かりし頃を演じて人気となり、高感度の高い役者です。
物語は、元風俗嬢で、今は弁当屋で働いている女性が主人公。街の外から来た彼女は、その街の人々と別け隔てなく接していくが、そのことで周辺の人に影響を与え、自分自身も何かが変わっていくストーリーです。
序盤から、公園の猫に話しかけているちひろさんが描かれ、公園でブランコに乗っていたりと、自由気ままなちひろさんの行動をしている姿がわかります。
その行動を観察している人もいますが、その人は後々説明されます。
ちひろさんは弁当屋で働いていますが、元風俗嬢ということもあり、ちひろさんの素性も周囲には知られていながらも、そんなことは気にせずに生活をしているちひろさんは行動原理がよくわからないところもあります。
街の人々では、まず、ホームレスのエピソードがあり、ホームレスは鈴木慶一が演じています。特にセリフがないところも「らしい」ところでもあり、その後の展開では、本作のちょっと複雑に感じるところにもなります。
その他に、女子高生のエピソードや元同僚の話もあり、ちひろさん自体は特に別け隔てなく接していくところに、不思議なところを感じます。
意外にも有村架純の着替えのシーンがありますが、あまり露出をしてない人なので、意外なところでもあります。とはいえ、本作は、設定自体は、多少成人向け要素がありますが、PG12指定の作品なので、さほど心配せずに観られます。
有村架純演じるちひろさん自体、個人的なことは特にわからないながらも、その場所にいる雰囲気は、とても印象深く、どこか掴みきれないところを持っている女性という点ではハマり役にも思えます。
「その人がどういう人なのかは、目を見ればわかるよ」
ちひろさん自体、人間観察という点では鋭いところもありながら、それを感じさせないところに、ちひろさんの不思議な魅力があるように思われます
「みんなでも食べても美味しくないものもあるし、一人で食べても、おいしいもんは美味しいよ」
お弁当を振る舞いながらも、ちょっと達観したところをちょっと見せるのですが、個人的には、人では、美味しいものは美味しいとはちょっと思えないです。確かに美味しいのかもしれないのですが、圧倒的に何かが足りない美味しさにも思います。
ちひろさんは、町の人々と接するには接しますが、その行動の本意はちょっとわからないところはあります。でも、本作は、ちひろさんを中心とした人々の物語なのかなぁというところです。
「わたし、そんな優しい人間じゃないよ」
周囲の人に分け隔てなく接するちひろさんですが、意外と線引きがきっちりしているところもあり、個人的なところには深入りできないようなところを感じます。
「いい気なもんね、人の気も知らないで。」
このセリフで確定してしまうのですが、本作は、他人が何を思っているのかや、自分の気持は必ずしも相手がそう思っているのとは違うというのがテーマになっているように思います。
「そんなの必要ないよ、俺は眼の前のあんたとはなしているんだから」
風俗の店長でもあるリリー・フランキーは、こういう役どころが非常にハマっているところもあり、いい加減そうに見えて、意外と本当のことを理解している人にも見えます。
中盤以降、ちひろさんの素性が徐々に見えてきますが、序盤での行動が妙に気がかりなところもあり、ちひろさん自体のキャラクターが掴みきれないところもあります。
弁当屋関係の人達がパーティを開いているところでも、ちひろさんは一人離れてしまうところもあり、彼女自身はなにか深い関係を拒んでいるようなところはわかります。
「ねえ、どこか遠くに行こうかなあって思ってる?」
終盤で、ちひろさんがどういう生活をしているかが描かれますが、実際にははじめから、ちひろさんは存在していないんじゃないか?と思ってしまうところもあります。
多くの登場人物が出てきますが、作品の中心はちひろさんであり、とはいえ、ちひろさん自体の素性はあまり多くを語らないところもあります。
本作の本質としては、他人の思う他人の人物像や思っていることは、人それぞれに違うというところでもあり、主人公への感情移入もどこかギリギリなところで拒まれているようなそんなところもあります。
本当の寂しさや孤独は見せないちひろさんのキャラクターとしては、心の広い人のように思えますが、実際には深い感情を持っているところがあり、それは弁当屋の店主夫妻もちひろさんを見守りながらも、どこかちひろさん自体は距離を置いているところなのかもしれません。