作品紹介
【監督】呉美保
【出演】吉沢亮/忍足亜希子/今井彰人/ユースケ・サンタマリア/烏丸せつこ/でんでん/
【あらすじ】主人公 五十嵐大は、耳の聞こえない両親を持ち、母親の通訳を幼い頃から行ってきた日常を過ごしてきた。成長するに従い、特別視や母の存在に悩み、20歳になったときに単身上京し、アルバイト生活を始める。
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丁寧で感情の機微を描くことの多い呉美保監督作品でもあり
呉美保監督は、大林宣彦の事務所「PSC」に助監督見習いとして制作に関わり、3作目の短編映画『め』で映画祭で評価されています。2003年「ハルモニ」で監督デビューをし、2006年「酒井家のしあわせ」では、原作、脚本、監督を努めています。2014年「そこのみにて光輝く」では、第88回キネマ旬報ベスト・テン 1位を獲得し、以降、2020年「虹」で菅田将暉のミュージックビデオを制作するなど、幅広く活躍している監督です。
吉沢亮は、2009年『アミューズ全国オーディション2009 THE PUSH!マン』でRight-on賞を受賞し芸能界入りをしています。2011年『仮面ライダーフォーゼ』で、2号ライダーを演じ、2013年にはテレビドラマ『ぶっせん』で初主演しています。映画やテレビと幅広い活躍をしている俳優です。
物語は、耳の聞こえない両親を持つ主人公が、成長するにしたがい、境遇に悩み始め、すべてを投げ出して上京して、東京でアルバイト生活を始めていくうちに自身の環境を見つめ直していくストーリーです。
本作は、作家 五十嵐大の自伝的エッセイ「ろうの両親から生まれたぼくが聴こえる世界と聴こえない世界を行き来して考えた30のこと」が原作となっています。
耳の聞こえない人が登場する作品は数多くありますが、主人公は健常者というところもあり、主人公に感情移入しやすいように作られているように思います。
耳が聞こえないということは、なかなか理解が難しいところになりますが、本作は、母親と息子の交流を丁寧に描いている作品でもあり、主人公の苦悩を一度抜け出して、母親のことを考えるという流れとなっています。
タイトルの「ぼくが生きてる、ふたつの世界」は、音のある世界と音のない世界のことを指しているのかと思われ、上京して家族を見つめ直したときに改めて気がつくことをメッセージとしているところになります。
両親役をはじめとした耳の聞こえない登場人物は、実際に「ろう者」の俳優を起用しており、2022年アカデミー作品賞を受賞した「コーダ あいのうた」にも通じるところがあるように思います。なお、「コーダ あいのうた」は、2014年のフランス映画『エール!』のリメイクでもあり、いずれの作品も高い評価があります。
丁寧で感情の機微を描くことの多い呉美保監督作品でもあり、しっかりとメッセージを噛みしめたい作品かと思います。