作品紹介
【監督】山口健人
【出演】黒羽麻璃央/穂志もえか/松井玲奈/安井順平/冨手麻妙/長村航希/八木アリサ/飯島寛騎/
【個人的評価】★★★★☆
【あらすじ】主人公 園田修一は、出版社の編集部で働きながら小説家を目指している男性。恋人の清川莉奈は何をやってもうまくいかず、半引きこもりのような生活をしている。修一は高校時代の先輩 相澤今日子に声を書けられ、小説家として賞を目指すことになり、莉奈はふとしたことで、修一とともに編集部で仕事をしていくようにになる。
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地味な物語ながらも、しっかりとメッセージや意図が込められた良作
山口健人監督は、学生時代から演劇を学び、ドラマやMVなどを制作しています。2023年「生きててごめんなさい」をはじめ、劇場用映画も手掛けています。
黒羽麻璃央は、2012年『テニスの王子様』2ndシーズンのミュージカルで俳優デビューをし、2015年「さとるだよ」で映画デビューをしています。テレビドラマや映画、舞台と幅広く活躍している俳優です。
物語は、出版社で編集者として仕事をしている主人公が、同棲中の彼女と暮らしながら、仕事やプライベートで迷いながらも前に進んで行くストーリーです。
序盤から、居酒屋で会話をしているカップルが口論しているシーンから始まります。
結局、その口論から騒動となっていきますが、問題なのはお客でもありますが、店員自体にも問題もあり、カニの足を投げたことで、大きな問題になります。
主人公は雑誌編集ををしながら、小説家になる夢を持っていますが、なかなかうまく行かないところはあります。
雑誌編集の仕事で、同僚が原稿なくすという漫画的な展開もありますが、主人公に降りかかる災難的なところは、主人公の日々の生活にちょっと悩みとなってしまうようなところでもあります。とはいえ、社会人あるあるなところでもあります。
全然関係ないのですが、黒羽麻璃央は、若葉竜也と雰囲気と空気感が似ているなぁと思います。
捨て犬の話は、莉奈の寄るペットショップでの出来事として描かれていますが、ワンエピソードと言うわけではなく、このペットショップの描かれ方の暗喩が非常に良いです。
同僚の森脇が仕事から逃げてしまったことで尻拭いをすることになりますが、作家と編集のパワーバランスもあり、取材ノートがないことでかなり問い詰められますが、ものすごく真綿で首を締めるようなところもあり、胃が痛い感じがします。
「夢もなくて、働いてもいない人は、ダメ人間だと思いますか?」
「ダメ人間ってなんなんですかね?」
作家の西川先生に莉奈が気に入られたことで、修一とともに仕事をしていきますが、職場と私生活とで2人が近い場所で生活していることで、徐々に亀裂が起こり始めます。
「今の私に助けられそうなのは、この子だけだったんだよ。この子だけでも助けたかったの、なんでわかってくんないの」
捨て犬の話も間に入ってきますが、莉奈の感覚にはちょっとついていけないところもあります。捨て犬問題は、心痛むところはわかりますが、とはいえ、救済するにも多くの苦労が伴います。
中盤で、莉奈と修一が口論になりますが、捨て犬の話が、実は単なるエピソードだけではないところに気付かされます。
「作家って命削って書いてるんだよ。私も毎日置いてかれないように必死なの。だからさぁ、締め切りくらい守ろ。」
修一自体も常識人のような印象もありますが、やはり、どこかズレているところを示しているところだと思います。
「園田、もう二度とこの業界の敷居またぐなよ。お前、真剣に生きてる人間の邪魔なんだよ」
トラブルの際に、出版論が出てきますが、夢や絵空事を伝えるのか、事実や真実を伝えていくのかというところで意思のズレはあるかと思います。ここまで観てきて思うのは、本作は恋愛映画のような感じではありますが、実際には仕事の物語であるというところです。
莉奈と修一の関係ですが、うまく行かなかったという流れとなるのは必然だったのかもしれませんが、1年後、修一は同じ部屋で過ごし、日々を生活しています。仕事の話が軸になりますが、終盤では再び、この2人の話へと戻っていきます。
そういえば、「いきごめ」のハンドルネームの由来は、ちょっと考えればすぐに分かります。
「ねえ、これはさ、一緒に渡っていいやつ?」
仕事と社会との関わりを大きく描きながらも、結局のところは、恋愛映画へと着地している作品でもあり、トラブルや苦労もありますが、地味な物語ながらも、しっかりとメッセージや意図が込められた良作です