作品紹介
【監督】藤井道人
【出演】綾野剛/舘ひろし/尾野真千子/北村有起哉/市原隼人/磯村勇斗/菅田俊/康すおん/二ノ宮隆太郎/駿河太郎/岩松了/豊原功補/寺島しのぶ/
【個人的評価】★★★★☆
【あらすじ】舞台は、1999年。主人公 山本賢治は父親を覚せい剤で失う。ある日、柴咲組組長・柴崎博の危機を救ったことで、父子の契りを結びヤクザの世界に入る。
サブスクで観る
ヤクザ映画としての範疇だけにとどまらず、社会問題やそのための変化をきっちりと描いた作品
藤井道人監督は、映画演出を学び、複数の短編映画を監督した後、伊坂幸太郎原作「オー!ファーザー」で長編デビューしています。2019年「新聞記者」で、日本アカデミー賞で作品賞を含む6部門を受賞し、高い評価のある監督です。
綾野剛は、「仮面ライダー555」で役者デビューをし、中野裕之監督の「全速力海岸」で主演にもなります。その後、2007年「Life」で長編映画初主演をし、音楽監督も兼任しています。2014年『そこのみにて光輝く』では、様々な賞を受賞し、『コウノドリ』『リップヴァンウィンクルの花嫁』『64 -ロクヨン-』『怒り』『日本で一番悪い奴ら』など、話題となる作品に出演し、演技の幅を広げています。
主題歌は、「FAMILIA」 millennium paradeとなっており、常田大希が中心となったグループです。
常田大希は、「King Gnu」や「PERIMETRON」にも関わりがあり、多彩な才能で音楽シーンに関わっています。
物語は、主人公がヤクザの世界に入り、そこで、自分の家族とヤクザのファミリーの形を描いたストーリーです。
序盤20分で主人公 がどのようにこの道に進んだ理由をわかりやすく描いています。
舘ひろしが柴咲組組長を演じており、この配役はかなり良いです。
そこから賢治は、海外に人身売買で送られそうになりますが、柴咲組の関係から見逃されるまでに至ります。ここまでの追い詰められる感はなかなかハードな展開です。
「これで、家族だな」
ここでタイトルとなるわけですが、ここまでのツカミがしっかりとできています。
山本の舎弟を、市原隼人が演じていますが、非常に良い感じです。むしろ違和感ないです。そのうえで、綾野剛自体も、ハマリ役のようなところでもあり、役者の揃え方はとてもよいです。
1999年、2005年、2019年の3つの時代を描いており、この20年の時間の流れでも、違和感を感じさせない風貌という点でも、役者の揃え方の良いところでもあります。
「ここに来るってことは、そういうことだろ。」
ホステスの工藤は、尾野真千子が演じていますが、この立ち位置と布石もまたよくできています。年代を重ねても違和感の感じないところは良いです。
「だったら、俺のタマでも取ってみるか?」
柴咲組と侠葉会の争いとなりそのことで、14年の服役を賢治は負うことになり、14年の経過が唐突に過ぎます。そして、そのあいだの変化で、かなり寂しい感じとなってしまいます。
ここから、本作の主題となってくるところが顕著になってきますが、色々と変わってしまった社会に、2019年時点での実社会の問題を描き出されていきます。
昔のしのぎとは違い、シラスウナギの密猟をしているというところも、とてもわびしく、さらに、組を抜けた細野(市原隼人)も、反社会勢力と関わることをためらうところが出てきます。
この距離感というのも、昔は家族だった舎弟がいつの間にか距離を置いてしまう侘しさがあります。
さらに、焼肉屋の息子だった翼も成長し、店の問題の仲裁役として、ヤクザとは違う形でシノギをしていたことがわかり、翼の父親も元々ヤクザだったことが描かれます。
義理や人情では立ち行かない社会情勢となっており、綺麗事で済まない現実も突きつけられます。
ヤクザから足を洗おうとし、社会に復帰していくさなか、賢治と工藤との家族としての束の間の生活も描かれます。
この14年という歳月は色々なことが変わってしまい、生まれてものや、消えたものが無残にも描かれていきます。
「お前は、まだやり直せる。」
その中で取り残された賢治がどういう道を選ぶかという点も、また、どのみち厳しい状況なのかもしれません。
「もう、お前らの時代じゃねえってことなんすよ。」
翼もまた、家族の関係をどこかに心に残しており、そのことで、どうしてもやりきれないことが芽生えているのかと思います。
社会生活に馴染もうとする賢治も、とあることがきっかけで、その周辺も含め、すべて散り散りとなっていってしまいます。
「全部終わりだよ、終わりだよ」
社会的な問題として、どうしても消せない問題と向き合っていかなくてはならず、これは2021年「素晴らしき世界」でも似たようなところで描かれたことではあります。
「あんたさえ、あんたさえ・・・」
「短い間だったけど、本当の家族みたいに一緒に暮らせて、幸せな時間だった」
賢治の独白と工藤への言葉で綴られますが、本作のあるべきところは、題名どおり、「ヤクザと家族 The Family」というところだったのかもしれません。
「あんたさえ、戻ってこなければ、ちくしょう」
とある人物がとあることをするのですが、これは、冒頭のシーンに繋がる経緯となります。
本作は、キーワードとして煙があり、「煙に巻いてきた人生」「狼煙をあげる人生」「煙たがられる人生」としてビジュアル的なテーマを取り入れられています。藤井道人監督作品で、『デイアンドナイト』では風、『新聞記者』では落ち葉、『宇宙でいちばんあかるい屋根』では星を、メタファーとしているそうです。
20年に渡る物語ではありますが、家族の繋がりがどのようなことで、本当の意味での家族と、つながりを意味するファミリーとを描いた作品であり、ヤクザ映画としての範疇だけにとどまらず、社会問題やそのための変化をきっちりと描いた作品とも思えます。