作品紹介
【監督】中川龍太郎
【原作】宮下奈都
【出演】仲野太賀/衛藤美彩/三浦透子/坂東龍汰/古舘寛治/川瀬陽太/河瀬直美/萩原聖人/村上淳/でんでん/
【個人的評価】★★★☆☆
【あらすじ】大学で生物考古学研究助手をしている主人公 行助は、こよみという女性が営むたい焼き屋に通うようになり、親しくなっていきます。ある日、こよみは交通事故に遭い、外傷がなく一命をとりとめますが、新しい記憶をとどめておけないという障害を抱えてしまう。
サブスクで観る
この静かさの中にしっかりとした気持ちの行き交うところが印象的な作品
中川龍太郎監督は、高校在学中に詩集を出版、その後大学では映画製作を始め、2012年「Calling」でボストン国際映画祭の最優秀撮影賞受賞する。その後、『愛の小さな歴史』『走れ、絶望に追いつかれない速さで』など、世界的に評価される作品を送り出しています。
仲野太賀は、俳優 中野英雄の次男として生まれ、2006年『新宿の母物語』でテレビドラマデビューをしています。2007年「フリージア」で映画デビューもしており、2008年「那須少年記」で初主演をしています。多くの作品に出演しており、今後の活躍に期待できる俳優です。
衛藤美彩は、高校時代に地元の情報誌「CHIME」でモデル活動をし、高校卒業後、歌手を目指して上京し、乃木坂46のメンバーに選ばれます。その後、2018年『プロ野球ニュース』のキャスターも務め、2019年3月31日に乃木坂46を卒業し、結婚を歴て、女優活動を開始しています。
本作では、衛藤美彩は、映画初出演初主演となります。
原作 宮下奈都は、映画化もされた本屋大賞受賞作「羊と鋼の森」でも知られ、2004年に発表した小説デビュー作の映画化となります。
2019年 第20回東京フィルメックス観客賞受賞作品です。
物語は、主人公が日々通る道にあるたい焼き屋の店主と仲良くなるが、相手の女性が交通事故に遭い、新しく記憶ができないことになってしまうストーリーです。
序盤は、このたい焼き屋の周辺と、行助の生活が描かれます。
このたい焼き屋はどういう立地で営業してるのかとてもモヤモヤします。そして、こよみ自身の私生活はほぼ描かれていないところもモヤモヤします。
なお、実際のたい焼き屋は、小田急線「読売ランド前駅」のパチンコ屋敷地内の駐車場となります。
これ、こよみ視点で観ると、「わたしが焼いているからお客が来ている」とも思えますが、きちんと生地やあんに工夫をしているという説明があり、味で客が来ているとも思えます。
ただし、たいやき一本で生計を立てているという視点から考えると、かなりモヤモヤするところが出てきますが、のちのち説明はされます。
ちなみに1個 150円ということで、1日1時間に6個で、10時間で60個。25日勤務として1,500個。つまり、225,000円。これではなかなか生計を立てるのは厳しいのかと思います。あと、夏場や冬場は、かなり仕事をするには厳しい場所とも言えます。
行助はもともと麻痺した足のため、足を引きずっているのですが、靴が片側だけすぐに履けなくなってしまうのだろうなぁと思うのです。
本作の題名「静かな雨」というのは、絶妙なタイトルでもあり、このタイトルを象徴するところから、とある転換期があります。
毎日、朝に同じことをこよみから聞かされます。
「ここ、ゆきさんち? 雨上がったんだね。」
やはり、記憶が留められないという点は、様々な映画やドラマでも描かれることもあり、実際には身近に感じないながらも、この状況というのは、当事者や園周辺の人々という点から、かなり周囲の環境は変わってしまうのかもしれません。
行助は、ブロッコリーが嫌いだと言うことですが、これは明確な伏線となっており、唐突なようにも思いますが、実はしっかりとその役割があります。
「槙原さん」の登場にも唐突さはありますが、お互いのことをどこまで知り得るかということを考えるのであれば、それは、非常に難しいところで、記憶や足の障害がなかったとしても、人と人の関わり合いについては、パートナーであっても、全てを共有しあえることは難しいところです。
なもんで、ちょっと心が小さいかなぁとは思いますが、同じことがループされるのであれば、行助も精神的には仕方がないかもしれません。
使用されている音楽がかなり独特でもあり、音楽で物語を動かしていると言っても良いのかもしれません。
場面の流れと音楽の流れは別々となっており、音楽はずっと流れながらも、場面が進むので、継続性があるように観られます。
この継続性のある繋がりは、この映画を象徴するようなところかもしれません。
終盤、とあるものを見つけてしまいますが、ここからの終盤の展開にはかなり心を動かされます。
ここからラストまでの展開は観てもらうのが良いのかもしれません。
タイトルが「静かな雨」というところで、静かな印象と淡々として物語が進んでいきますが、意外とストーリーとして見応えがあり、2人を中心としたしっかりとした内容で、すべてを説明するというよりも、行間を読むところが多少あります。
個人的にはこの静かさの中にしっかりとした気持ちの行き交うところが印象的な作品でした。