【監督】岩井俊二
【出演】三上博史/Chara/伊藤歩/江口洋介/アンディ・ホイ
【個人的評価】★★★★☆
【あらすじ】近未来の架空の都市「円都(イェンタウン)」を舞台にした物語。主人公 グリコは、娼婦として生活をしていましたが、ある日仲間のフェイホンと偽札造りの方法を知り、偽札で夢をつかもうと、ライブハウスを買い、グリコは歌手として成功していきます。そんな彼らは、円都でのマフィアの抗争に巻き込まれ、それぞれの運命が変わっていきます。
映画という考え方のなにか違う切り口を見せられた気がします
岩井俊二監督は、長編デビュー作「Love Letter」で圧倒的な演出と物語展開で高い評価を得た監督です。もともとは、プロモーションビデオや短編ドラマですでに頭角をあらわしており、美しい映像や演出で、「岩井美学」とまで呼ばれていました。
本作は、書き下ろしの脚本で映画化をしており、過去作品もほぼすべて「監督・脚本」を担当しています。
Charaは、もともとミュージシャンとしてデビューしており、役者としてはほぼ未経験でしたが、岩井監督の過去作品「フライドドラゴンフィッシュ」での挿入歌を、「PiCNiC」で出演をしたことがキッカケに本作の主演と選ばれた経緯があります。(※「フライドドラゴンフィッシュ」でも、本来は主演を熱望されていたようです。)
その他、脇を固める役者は非常に豪華で、チョイ役で出てくる人も、今では主演級の役者が多くいます。
当時の岩井俊二監督の評判から、「とにかく出演したい」というラブコールが多かったことも背景にあります。
物語の本筋も結構複雑で、群像劇と考える方が良いのかもしれません。
また、円都の設定と作り込みがよくできており、多国籍都市を、言語、生活、人種等様々な要素を盛り込み、架空の都市ながらも将来の日本のような印象を受けます。これを1998年の時点で作品として考えていた点も興味深いところです。
映画の中でさらに面白いのは、「劉梁魁(リョウリャンキ)」の喋るリャンキ語です。江口洋介が演じていますが、上海系流民を率いる円盗のボスで、拳銃を持たず、指鉄砲だけで、組長のボスを追い込んで行きます。
なぜ指鉄砲だけで追い込めるのかは、部下のマオフウ(隈取の風貌の手下)が背後からすべてをフォローしているからです。
この緊張感のある演出だけでもお腹いっぱいです。
その後、グリコ、フェイフォンの物語と、捨て子のアゲハの物語となりますが、焦点の当て方はむしろ群像劇であり、主役のようでもありますが、物語の主軸は偽札と芸能活動というところになります。
映画の中では、YEN TOWN BANDという架空のバンド(映画の中では存在するバンドですが・・・。)を作り上げますが、実際に映画の枠を飛び越えて、実際にCDやライブまで行いました。
この手法も非常に興味深く、映画という虚構の中に現実とも虚構とも言えるバンドをデビューさせたことには、映画という考え方のなにか違う切り口を見せられた気がします。
後に、岩井俊二監督作品「リリィ・シュシュのすべて」で、更に突き詰めた手法が取られ、今までの映画製作の枠組みを違う視点で観られたように思います。
完璧な作品といえば、そうではなく、やはり「アゲハ」の存在理由や、フェイフォンの生き様等なにか変わったかと言われると、登場人物は何も成長していないところはあるように思います。
複雑な人物を相関をまとめ上げて、群像劇としてキャラ立ちした人物を成立させ、ひとつの世界観を構築したことがこの映画の良いところかと思います。
なお、オープニングのあらすじの演出は見事。
そして、「フライドドラゴンフィッシュ」のナツロウは、山口智子の演じる諜報組織の同僚など、実は、キャラ設定が相当作り込まれている点は面白く、興味があれば、小説版を読んでみるのもよいのかもしれません。