作品紹介
【監督】田口トモロヲ
【脚本】宮藤官九郎
【原作】みうらじゅん
【出演】峯田和伸/麻生久美子/中村獅童
【個人的評価】★★★★★
【あらすじ】主人公は、ギタリストの中島。彼はSPEED WAYというバンドを率いて本物のロックを体現していく。人気もそれなりに出てくるが、バンドブームの風潮に乗りながらも、一過性のブームに対して疑問を感じ、葛藤する。そんなある日自宅アパートにボブディランのような風貌のハーモニカ弾きが現れ、中島に影響を与える。
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「やらなくきゃならないことをやるだけさ。だから、うまくいくんだよ。」
田口トモロヲ監督は、本作が初監督作品で、もともとは役者として癖のある役どころをつとめることが多く、名脇役な要素があります。
過去には、ロックバンド ばちかぶり のボーカスリストという一面も持っています。
峯田和伸は、GOING STEADY のヴォーカリストとして活動後、現在は、銀杏BOYZのメンバーとしてバンド活動をしています。
本作は映画初出演で初主演という抜擢で見事な演技を見せています。
もともと、実家は年商5億円の峯田電器が実家の家業でしたが、実家を継がずバンド活動で大成するということで、上京、その後公言通り人気バンドとなり、現在の芸能活動に繋がっています。
バンド自体は、かなり熱い楽曲が多く、メッセージ性が非常に強く個性的すぎる曲でクセがありますが、訴えかけてくる要素がやみつきになります。
役者としても、クセの強すぎる演技ながらも、オフビートな雰囲気があり、音楽同様にこちらも唯一無二のような表現力があります。
原作はみうらじゅんの自伝的小説がベースとなっており、敬愛するボブディランのオマージュが多数込められており、主題歌となった「ライク・ア・ローリング・ストーン」も使用許可が降りにくいところでしたが、英訳した脚本を本人に読んでもらい、度重なる交渉の末、使用許可されています。
脚本は宮藤官九郎が担当しており、軽快なセリフとメッセージ性がうまく混じり合っており、素晴らしい脚本となっています。
思えば、ボブディランにこの軽快な脚本を読んで、楽曲使用許可をしたというところは驚きです。
他にも音楽にはこだわりのある人選で白井良明、大友良英、遠藤賢司らが関わっています。
物語は、バンドブームの中、商業性と作家性のぶつかり合いがあり、一過性のブームで終わらせたくない主人公の訴えかけるメッセージがあります。
そのきっかけと後押しとなるのが、冷蔵庫から出てきた中島だけに見えるボブディランらしき人。
このちょっとファンタジーな要素が、この作品の厚みのあるところで、中島の行動と信念の裏付けになっています。
何度も商業音楽の方向性に疑問を感じてしまうところがあり、中盤のライブのシーンの心の叫びに通じてしまうようなところはまさしくのこの映画の見所であります。
当然このシーンでの狂ったような演奏と重なってボブディランの幻影も狂ったかのようにブルースハープを弾いています。
これだけの訴えかける要素を演じるには、SPEED WAYのバンドのメンバーと峯田和伸の演技すら超えてしまっているかのようなメッセージ性があると思います。
ヒロインの麻生久美子の存在もボブディラン同様に重要な役どころであり、中島が苦悩しながらも、決して見放すことのないところに、直接的ではないにしろ、大いなる愛情が込められているのだと思います。
映画全体は青臭く、気恥ずかしさも感じてしまうような若気の至りも感じてしまうところですが、この辺りも、田口トモロヲとみうらじゅんならではの、確固たる信念が込められているからであり、その代弁者として他に選びようがない峯田和伸が体現しているのだと思います。
「俺たちがやっていることは歌謡曲じゃない。仮にもロックなんすよ。」
「誰もいなくなったって、わたしだけは味方なのに。」
「やらなくきゃならないことをやるだけさ。だから、うまくいくんだよ。」
世の中にはうまくいかないことが多く、挫折を味わってしまうモノですが、その避けて通れないようなことを、この映画で見事にメッセージとして観るものに伝えている作品です。