作品紹介
【監督】熊切和嘉
【出演】菊地凛子/竹原ピストル/黒沢あすか/見上愛/浜野謙太/仁村紗和/篠原篤/吉澤健/風吹ジュン/オダギリジョー/
【個人的評価】★★★☆☆
【あらすじ】主人公 陽子は、就職氷河期時代の42歳独身女性。フリーターとして生活をしていましたが、ある日、父の訃報で故郷の青森県弘前まで車で向かうことになる。
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気持ちの引っ掛かりは、旅を通じて一つづつ取り除かれていくそんな気も
熊切和嘉監督は、1998年『鬼畜大宴会』を学校の卒業制作で作成し、「第20回ぴあフィルムフェスティバル」で準グランプリを獲得し、注目されます。2001年『空の穴』で商業映画監督デビューをし、以降映画やテレビで作品を発表しています。2014年「私の男」でモスクワ国際映画祭 最優秀作品賞を受賞しています。菊地凛子や加瀬亮の映画デビューは、いずれも熊切和嘉監督作品でもあります。
菊地凛子は、1999年『生きたい』で映画デビューをしていますが、このときは本名で活動しています。2004年5月に芸名を変えて以降、2006年「バベル」で高い評価を得ています。2013年「パシフィック・リム 」「47RONIN」などで、海外での活動も多く行っており、日本に留まらない活動をしている女優です。なお、2015年に染谷将太と結婚しています。
物語は、就職氷河期時代のアラフォーの独身女性が、父親の訃報により、車で東京から弘前までを旅するストーリーとなります。
序盤から自宅で引きこもりのような感じで生活している陽子が描かれます。
インターネットを使って買い物をし、レトルト食品を食べ、昼夜逆転したような生活をしたりしているところは、氷河期時代の就職難の世代の行く末的にちょっとリアリティがあります。
未婚でもあり、仕事もリモートでのクレーム処理が仕事と言う状況でもあり、陽子自体、上京をしても結局うまくいかなかったところもあり、性格も生活もちょっと曲がってしまったところを感じます。
そこで、父が亡くなってしまったことで、青森へ帰郷することになりますが、単身ではなく兄の家族の車に同乗して、青森へ向かうのですが、結果的に、車に乗れずサービスエリアに取り残されたことで、ヒッチハイクで弘前を目指すわけですが、旅費自体も用意できないというところに、妙なリアリティを感じます。
銀行へ行けばお金は持っているとは思うのですが、本作は陽子自体の経済的な困窮が序盤で描かれていることで、その後の、お金の問題も切実に感じてしまうところはあります。
「658km、陽子の旅」というタイトルは、東京から弘前までの旅でもあり、そのほとんどはヒッチハイクによるものでもあります。
コミュ障な陽子からすれば、この度は過酷なところもあり、それでも弘前まで行かなくてもどうにもならないというところに行動を起こすしかないわけで、なんとか、声を掛けて、なんとか弘前を目指していく流れとなります。
主人公視点の物語でもあるので、感情移入しやすいのですが、主人公 陽子に同情できるところが少なく、陽子の行動や態度には不快なところも感じます。
本作のキーとなるので、その違和感を覚えながらも主人公に感情移入したくないながら、主人公視点の物語ともなっており、この違和感が終盤につれて、きちんと昇華されていくところはあります。
自分一人で生きていけるという点と、家族や父親の関係もあり、その陽子の周りにある気持ちの引っ掛かりは、旅を通じて一つづつ取り除かれていくそんな気もします。
意外と内容がないようにも見えますが、人のつながりを見ていくと、出会う人々を通じて、主人公自身を見直していく流れとなり、違和感のある感情移入があるからこそ、終盤で、しっかりと回収してくれるところになります。
地味な作品ではありますが、菊地凛子の存在とふるまいが非常に効果的でもあり、終盤の気持ちの吐露で、色々回収してくれる作品です。