【監督】川崎僚
【出演】寺坂光恵/川合空/三坂知絵子/新津ちせ/湯舟すぴか/みやべほの/見里瑞穂/斉藤結女/荒木めぐみ/鈴木達也/
【個人的評価】★★★☆☆
【あらすじ】主人公 純子は、子供のいない夫婦に卵子を提供するエッグドナー(卵子提供者)の説明会に参加する。そこで従姉妹の葵と再会する。レズビアンである葵は、純子の家に泊めてもらい、奇妙な共同生活を始める。
割れてしまう卵にも、ストレートに言葉にならない演出が込められています
・川崎僚監督は、映画の脚本家を目指しながらも、徐々に役者や監督といった道へと進み、2013年短編映画『夏目の女』で監督デビューをしています。その後、2018年『wasted eggs』で初の長編映画を手掛け、様々な賞を受賞。その後、2021年に改題をし、『Eggs 選ばれたい私たち』で全国で公開されています。なお、性別で作品を判断してほしくはないという考えから、川崎僚という名前で活動をしています。
・寺坂光恵は、児童劇団でミュージカルを中心に活動をし、2014年『かかし女-フェノメノン・ガール-』 で映画出演しています。その後自主映画等の出演を重ね、舞台や映画で活躍している女優です。
・物語は、エッグドナーの説明会を通じて出会ったいとこ同士が、そのことをきっかけに奇妙な共同生活を始め、女性の生き方等を見つめ直すようなストーリーです。
・序盤から、ドキュメーンタリーのような演出で、エッグドナーのことを語る女性が描かれ、そのBGMとして、卵をボウルでかき混ぜる音が被さります。
・淡々とした演出ながらも、ドキュメンタリーな演出なので、いきなりではありますが、すぐに作品の世界観には引き込まれます。
・「私は、キャリアも結婚も出産も、全部諦めたくないんです。」
・ひょんなことから純子の部屋に葵が転がり込みますが、なかなか取引条件を持ち出してきて、嫌な感じです。
・「じゃ、ここ住んでいい?」
・ここから共同生活をしていきますが、家のルールが崩れたりするので、なかなかイライラします。
・「ごめんごめん」
・これで済んでいく流れにはストレスを感じてしまうところもあり、本題のエッグドナーとはちょっと異なる展開とも思えます。
・要所要所で海岸の情景が挿入されますが、これも暗喩にあるところになります。
・従姉妹の葵の行動がなかなか引っかかって来るところがあり、細かいところのお金のやり取りにはうんざりするところはあります。
・理屈的には生涯にかかる費用を計算するクダリは面白いのですが、生涯に使う生理用品の費用352,800円を考えるとたしかにその金額ですが、こういう考え方をしてしまうと何も前に進まない気もします。
・「子供産まなきゃ生理なんて意味ないよ」
・「私は差別していませんって、そう思い込んでるだけだよ。」
・意外と鋭いことをサラッと描いているところがあります。
・葵の元カノとの別れとして、とある店で再会するのですが、忘れ物を渡した道具がちょっと気になります。
・「こういうのはね、気持ちなの、気持ち」
・シレッと描く演出がなかなかドライな感じもしますが、説明しすぎないところが、序盤のドキュメンタリー的な演出に通じているかと思います。
・終盤で、再び卵をかき混ぜる音をBGMに純子が着替えをするシーンが描かれ、このシーンのなんとも言えない感じは、女性ならずとも、なんとなく重くのしかかる悩みや苦悩に思います。
・「選ばれなくて、かわいそうって思ってる?」
・ここから純子と葵の間で揉め事がありますが、ここで割れてしまう卵にも、ストレートに言葉にならない演出が込められています。
・「理解してもらえないって思い込むの、差別されてるって思い込むの、やめな。」
・結婚や出産をどう考えるのか、そして、エッグドナーとしてハワイへ行った葵との関係は、この海岸がその意味合いとなっているように思われ、その隔たりというのは、なかなか他人には理解しづらい点を、本作なりの表現で描いていると思います。
・70分という時間でまとめ上げた作品となっていますが、厳密に答えの出しにくい社会問題を扱った作品でもあり、観る人によって賛否の別れてしまう作品かと思いますが、監督のメッセージはエッグドナーに関心のない人にも伝わるような内容かと思います。