【監督】太田信吾
【出演】太田信吾/本山大/山口遥/琥珀うた/佐藤亮/岸建太朗/KURA/朝倉太郎/鈴木宏侑/籾山昌徳/本山純子/青山雅史/
【個人的評価】★★★★★
【あらすじ】主人公 スヤマは、東京に住むAD。ある日引きこもりの息子を持つ母親の取材をしているときに、引きこもりの息子と意気投合する。その後、ディレクターに反抗し、自らディレクターとして作品を作ろうと、大阪へ自分の作品を撮影しにいく。
非常にわかりやすく胸に刺さってくる作品でもありますので、鑑賞の際には多少注意は必要
太田信吾監督は、大学で、哲学と物語論を専攻し、その中で映像制作に興味を持ちます。2009年『卒業』は、『イメージフォーラムフェスティバル2010』「優秀賞」「観客賞」を受賞し、長編作品『わたしたちに許された特別な時間の終わり』が『山形国際ドキュメンタリー映画祭2013』で公開後、世界12カ国でも上映されており、監督と俳優として活躍しています。
物語は、ドキュメンタリーの手法をとっていますが、劇中劇とも言えるところでもあり、ディレクター志望の主人公が、大阪西成地区でのリアルを映像として取材しているストーリーです。
主人公スヤマは、序盤では、ADとして、ドキュメンタリー番組の制作に関わっていましたが、ディレクターと揉めることとなり、自分自身で作品を作ろうと模索します。
昔に撮影した少年のドキュメンタリーを手がけようと、大阪西成地区へと向かいますが、
ホームビデオとドキュメンタリーの違いを同棲している彼女に問われ、この点についても、作家性の宿り方が作品にどう反映しているかによって変わるとも思われ、主観ではなく、客観的な意見としては、考えさせられる要素でもあります。
「映像者として撮って良いもの」と「撮ってはいけないもの」これも作家性のの一つであり、自己満足ともとられる要素でもあります。このメッセージをどう伝えるかは、作家性を後押しする要素としては必要なところになります。
ドキュメンタリーの手法をとっていながらも、やはりシナリオは存在しており、とはいえ、この西成の地区風景は限りなくリアリティのあるところではあります。
もらいタバコと費用の立替とかをみていると、スヤマという人物の未熟なところと誠意が見えないところは、残念な人にしか見えません。
一晩夜をともにした女性に財布を盗まれたとしても、信用できる話にも見えず、主観で物語が描かれていますので、主人公を客観的に観た時には、やはり、信用しづらいところがあります。
日雇いの仕事も描かれ、この地区でどういうような生活を送っているかという点はドキュメンタリーな感じもあります。
「若者でもないし、おっさんでもないし、お前のリアリティなんやねん、まずそっからやろ。」
「ひとの生活覗いて、リアリティで、ドキュメンタリーで、意味ワカランで。」
「にいちゃん、紹介料。」
「それで救った気になってんのかよ」
「なんかやったことあんのかよ」
「どん底にいる人間なんて救えねえよ。誰も。」
「この街みりゃわかんだろ。」
西成区での人々の生活は、一時期の建設ラッシュの時に人が集まり、バブル崩壊後に生活が一変し、そこからさらに、各地から生活に困窮した人たちが集まってきた場所であり、ザックリとではありますが、彼らにも彼らの理由があって生活をしている地区ともなります。
現在の町の風景としては、リアリティのある描かれ方ですが、病巣が描かれている以上のところはあまり描かれていません。
一つの表現と事実としては間違いではないですが、根深い事情があるということも必要ではあります。
日雇いの仕事をしているセリフがこの作品に対するメッセージとも言え、ドキュメンタリーと事実と創作という点が絶妙に絡み合っているところはあります。
終盤ではとある部屋での展開がありますが、これも、事実と創作のギリギリ間を描いているところかと思われ、この町の生活の難しいところが描かれます。
立替27000円、バス代3000円、宿泊費400円、貸して欲しい金額30000円、日雇い日給10000円、路上売買5000円と様々な数字が出てきますが、この数字のリアリティが他の描かれている要素の説得力にもなっています。
この作品で訴えたいことは複数存在するとは思いますが、これもまた今の社会での現実の一つではあり、明確な答えというよりも、まずは本作を観た時に感じたことが各々の本作の答えなのかもしれません。
万人にオススメできる作品ではありませんが、非常にわかりやすく胸に刺さってくる作品でもありますので、鑑賞の際には多少注意は必要です。