作品紹介
【監督】森淳一
【原作】五十嵐大介
【出演】橋本愛/三浦貴大/松岡茉優/温水洋一/桐島かれん/
【個人的評価】★★★★★
【あらすじ】主人公 いち子は、都会生活をしていたものの再び故郷の小森に戻り、そこで生活をするスローライフな物語です。
サブスクで観る
小森という地区の魅力と今までの暮らしとの関わりがきっちりと描かれています
森淳一監督は、テレビドラマの助監督を努め、2002年「Laundry ランドリー」で長編映画デビューをし、「恋愛小説」「アマレット」「重力ピエロ」などテレビや映画、ミュージックビデオを多数手がけています。
原作の五十嵐大介は、中学時代より漫画を描きはじめ、押井守に影響され、サイレント漫画を多く描く。後に、「お囃子が聞こえる日」「未だ冬」の2作品で1993年アフタヌーン四季賞冬のコンテストの四季大賞を受賞し、漫画家デビューをします。2004年『魔女』により第8回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞、2007年から『海獣の子供』を連載し、同作品で第38回日本漫画家協会賞優秀賞を受賞をしています。幻想的で自然を題材とし、克明な描写に定評のある漫画家です。
橋本愛は、3姉妹の次女として生まれ、一番顔が濃かったという理由で母親がオーディションに応募し、グランプリ受賞の末に芸能界デビューしています。2009年『Seventeen』のミス・セブンティーンに選ばれ、以降映画やドラマに活躍しています。主な作品に「告白」『桐島、部活やめるってよ』、NHK連続テレビ小説『あまちゃん』などがあります。
三浦貴大は、父 三浦友和 母 山口百恵の俳優。もともとは、大学時代に精神保健福祉士を目指していたが、迷った末に俳優となっています。
物語は、東北地方の小さな山村の小森を舞台に、そこで自給自足の生活する女性とその地方の四季を描いたストーリーとなります。
オープニングの5分ですでに世界観ができており、独白をしているナレーションと主人公 いち子の生活を描いたストーリーです。
何が良いのかといえば、音楽とこの独白形式のナレーションでもあり、物語の大きな流れはありますが、山村で自給自足をする女性の生活に面白さがあります。
このときの橋本愛の年齢はおよそ17~18歳とおもわれ、これはこれで、ちょっと恐ろしいところがあります。
いろいろな自給自足の事柄が描かれており、出来合いの食べ物を食べていくのではなく、ほとんどのものを自らで作り、自給自足の生活を営んでいます。
小森という山村の四季折々の生活様式と自然の恵みを丁寧に描いているので、スローライフとも呼ばれるローカルライフを興味深く描いています。
原作が、五十嵐大介の漫画となっており、作者自身は昔この地区に3年ほど生活していたこともあり、そのときの経験を本作に詰め込んでいます。原作では、自然の食材を使った料理が紹介され、第10回手塚治虫文化賞にノミネートもされています。
音楽は、宮内優里が担当しており、とても印象的で自然を意識させる音楽になっています。
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本作は、2019年に韓国で映画化されており、日本版とは異なり、食材や食は韓国ならではのものでまとめられています。
演出自体は独特なところもあり、ドキュメンタリー風なところもあります。そして、主人公 いち子の独白のナレーションで状況が説明され、いち子自体はあまり人との関わりがないようにも思います。
夏編は、いち子の生活風景を描きながらも、母親との思い出も含めて物語が進んでいきます。
「ウスターソース」や「Nutella」のエピソードなどこれも、いち子と母親のエピソードが続く作品にも結びついていく要素があります。
秋編は、鴨の解体や、収穫の秋ということもあり、様々な食材がでてきます。一人で農業を行い自給自足の生活をしていますが、この収穫によって生活が成り立っているわけですね。
本作の感想に「どのように収入を得ているかわからない」「理想的なところが多いけど、現実感がない」というのを見ますが、いや、実際農業ってこういうところなのだろうなぁと思うわけです。
食べ物を保存しておくということも必要ではあるし、毎日収入があるわけではないので、想像しづらいのかもしれません。また、あくまで、実体験に沿っているとはいえ、創作物ではあり、多少の演出上の都合はあるとはおもいます。
冬編は、いち子の過去が描かれながら全体的な物語の輪郭が多少見えてきます。ただしやはり本作の流れに物語性を訴えるというよりも、この生活自体がどういうことなのか言う点がポイントです。
そして、いち子のこの地に対しての答えもぼんやりと描かれます。
春編は、いち子自身の進路の選び方と小森という地域での営みと自然の恵みが描かれています。
終盤の神楽のシーンは、事前に橋本愛が東京から岩手に通い、約1か月をかけて神楽保存会より指導を受けた上で、橋本愛自身が踊っています。
当然、春編が本作の締めくくりとなり、神楽を舞うシーンと1年を通じてのいち子の生活、そしてこの小森という地区の魅力と今までの暮らしとの関わりがきっちりと描かれています。
「らせん」「円」という言葉が出てきますが、明確に理解しなくても、全編通じて観ればこのことはしっかりと心に残るようにできています。
本作を観ている中で、原作コミックの購入を決めましたが、現在絶版になっていると思われ、中古で購入をするしかないようです。電子コミックであればすぐに購入できます。
食と生活と地域社会を描いた作品ながらも、退屈な展開とならず、独白のナレーションでモクモクと作業しているところがとても惹きつけられ、そこに存在している自然の音と、宮内優里の魅力的な音楽が融合した傑作です。