【日本映画】「市子(2023)」★★★★★ 【感想・レビュー】

作品紹介

【監督】戸田彬弘
【出演】/若葉竜也/知//中村ゆり/中田青渚/
【個人的評価】

【あらすじ】主人公 川辺市子は、3年間同棲していた恋人 長谷川義則からプロポーズされるが、忽然と姿を消してしまう。調べるうちに、市子は、違う名前を名乗る人だった事がわかる。

車のライトで目を隠しているところの演出は、地味に良い演出

戸田彬弘監督は、大学時代より映画製作をはじめ、演劇から活動を始め、独学で映画を制作してきています。2014年『ねこにみかん』で長編映画デビューをし、その後、コンスタントに作品を発表しています。

杉咲花は、子役として芸能界に入り、一時期芸能界を離れるが、中学生になり再び女優を目指、2011年「ドン★キホーテ」でドラマ初出演をし、以降ドラマや映画に出演しています。個人的には非常に表現力がある素晴らしい女優かと思います。

若葉竜也は、2005年「HINOKIO」で映画デビューをし、テレビや映画で活躍をしています。監督作品などに多く出演をしており、2020年は「ワンダーウォール 劇場版」「生きちゃった」「朝が来る」「罪の声」「AWAKE」と多くの映画作品に出演し、今後が期待の俳優です。

物語は、主人公と同棲をしていた男性が、相手にプロポーズをするが、女性は忽然と姿を消してしまう。彼女の過去を調べていくうちに意外な事実がわかっていく。

序盤から鼻歌を歌いながら荷物をまとめている市子が描かれ、同棲相手の義則が帰ってくる前に、ベランダから逃げ出します。その際に東大阪市での死体遺棄事件のことがテレビで放送されています。

そこから、時間が遡り、同棲しているときのことが描かれます。そこで義則はプロポーズをして幸せな2人のことが描かれます。

その後、時間が戻り、市子が失踪したことで、捜索願を出し、部屋で事情聴取を受けるシーンとなり、徐々に2人の関係やこれまでの背景がわかってきます。

市子の出身と生年月日から、そのような人は存在しないということが告げられ、その市子という人はだれだったのかが、本作の大きな流れとなっていきます。

現在の時間、2015年からときが遡り、1999年になります。昔の頃の話として物語が描かれますが、市子の過去を紐解いていく展開となっています。

山本さつきとタイトルが現れ、小学校時代の市子が描かれます。子供の頃に遡り、市子の過去が徐々にわかっていく流れとなっていきます。

幸田梢という子も関係者として描かれ、周囲の人が市子をどう見てきたかがわかってきます。

「うちな、ほんまは、月子っていう名前ちゃうねん。市子っていうねん」

市子の小学生の時代のことが描かれ、友達になりかけた幸田梢とも仲良くなっていきますが、市子の生活は梢の生活環境と異なり、市子自体の引け目とどうしようもない環境で、息苦しい暮らしをしてきたことがわかります。

「宗介、うちホンマに宗介のこと嫌いなんちゃうんよ」

田中宗介、長谷川義則、吉田キキと様々な人がそれぞれの視点から市子をみて、皆違う印象を抱いているところがあり、この違いは、思い違いや間違いではないことが徐々にわかってきますが、市子がなぜ市子なのかを探っていく展開にもなります。

「花はちゃんと水あげへんと枯れるから、好き」

中盤で、義則が市子を探して、吉田キキを探している姿が描かれ、義則自身も警察が市子を捜索していることについて疑問を持ち、警察と義則がともに市子の経歴を探り、どこに失踪したのかを探していく流れになります。

市子の素性の想像つくところが徐々にわかってくることで、そのことをさらに確証を取るための行動をしていきます。

この先は、ネタバレになっていきますので、物語を見たほうが良いのですが、ここまでの序盤の展開で本作の魅力しかないので、一気に観られます。

北秀和、川辺市子とタイトルが描かれ、市子にまつわる周辺の話と、その経緯や理由が徐々に解き明かされていきます。

中盤で、川辺市子の話となり、北秀和が過去に仲が良かったということで、市子を探している義則がどうしても市子ともう一度会いたいという思いからともに行方を探していきながら、過去にあったことも徐々に明かされます。

「最高や、全部流れてしまえ」

学生の頃に雨に打たれながら、市子はそんな言葉を吐きますが、これだけでは市子がどうして複雑な家庭環境になっているのかはわかりません。

「川辺は、オレにしか助けられんから」

断片的に市子自体の生い立ちが語られますが、きちんと説明されるわけではないので、いまいち状況がわかりませんが、この中盤の北くんと市子の間で起こったことはかなり重要なところになります。

「そんな嘘、すぐバレんで」

「北くん、うちな、普通に生きていきたいだけやねん」

月子と市子と関係はちょっとややこしい関係ですが、しっかり観ていればどういうことなのかはきっちりとわかります。本作は、市子がどういう人なのかを紐解いていく話ではありますが、そのことをもう掘り起こしてほしくはない市子の気持ちが入り交じるところになんとも言えない感じが込み上げてきます。

終盤、市子の家族のことがわかり、義則はその顛末を知っていきますが、疾走した市子を探していきます。その際の、市子に会う時の車のライトで目を隠しているところの演出は、地味に良い演出です。

ラストは、どう考えても義則と一緒に過ごしていた3年間がとても心に残ります。

「今日からは、ただいまやで」

もともとは舞台の作品として書かれた作品でもあり、タイトルは「川辺市子のために」となっています。そのために、このタイトルの意味はどういう目線を示したタイトルなのかを考えると、本作で言いたかったことがじんわり伝わって来るようにも思います。

説明の難しい作品ではありますが、観てもらうのが一番良い作品でもあり、非常に完成度の高い構成と、演出力で隙のない仕上がりの作品でもあります。

予告編

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