作品紹介
【監督】吉野竜平
【出演】佐久間由衣/奈緒/小日向星一/笠松将/葵揚/森田想/宇野祥平/馬渕英里何/坂田聡/
【個人的評価】★★★★☆
【あらすじ】主人公 堀貝佐世は、児童福祉職への就職が決まり、卒業までなんとなく過ごしている大学生。ある日、友人の頼みで授業のノートを取る約束をするも、寝坊をしてしまい、声を掛けた猪乃木楠子にノートを借りる。そのことで、楠子と佐世は、親密になるが、楠子には過去に辛い思い出があり、佐世も、友人の穂峰直が亡くなってしまうということが起こる。
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複雑な想いが絡み合いつつも、どこかスルッと心に伝わってくるものがある良作
吉野竜平監督は、大学在学中から映画製作を始め、2012年「あかぼし」で長編映画監督デビューしています。2018年「四月の永い夢」では、中川龍太郎監督と共同制作をしています。
佐久間由衣は、2013年にスカウトされ、2014年『人狼ゲーム ビーストサイド』で女優デビューをしています。2017年に女優業に専念するためにモデルを引退し、2019年『“隠れビッチ”やってました。』で初主演をしています。
奈緒は、高校1年のときに地元福岡でスカウトされ、芸能活動を開始しています。2013年にテレビドラマに初出演し、2016年『雨女』で映画初出演をしています。2017年までは、本田なおで活動をしていましたが、姓名判断より本名の「奈緒」と芸名を変更して以来、仕事が増えたとのことです。2019年『のの湯』では、テレビドラマ初主演を努めています。尊敬する女優は田中裕子。
原作は、2005年に書かれた津村記久子による小説ですが、2005年に第21回太宰治賞を受賞した作品『マンイーター』を改題し、「君は永遠にそいつらより若い」となっています。
原作と相違点がいくつかあり、映画では、「舞台が東京」「一部、登場人物が出ない」「卒論のテーマの変更」「各登場人物の出身地が異なっている」などとなっています。
キャッチコピーは「その言葉でじゅうぶんだと思う。」
物語は、児童福祉職への就職が決まった女子大生が、卒業までの間の生活の中で、新しい友人との出会いと、友人の死を通じて、自分自身の考えを見つめ直していくストーリーです。
序盤から、佐世のキャラクターがわかるような描かれ方となり、前向きで楽観的ながら、どこか大学生活で流されて目的が明確にならないような生活をしている状況となります。
大学の友人らが何人か登場をし、その仲間たちを中心に物語が進みますが、主となるのは、佐世と楠子です。
佐世にある、どこか「なんとかなるだろうでなんとかなってきた」という境遇に自分自身を投影しやすいところもあり、周囲の人間がどう思っていて、色々と苦しみを抱えているという視点とのコントラストは、興味深いところがあります。
「絶対にあきらめないで。君は永遠に、そいつらより若いんだよ。」
「だめだなぁ、やっぱりね、こんなとっちらかったことしか言えない人間なんです。あたしってやつは。」
この言葉がすべてを表しているのかと思います。まあ、本作のタイトルが「君は永遠にそいつらより若い」なんで、そうなります。
「わたしがいなくても、この工場は滞りなく進んでゆくのだ」
学生時代にアルバイトをしていた工場の人々もそれぞれに人生があり、佐世も佐世で、人生は続いていくところはあります。その点について深くメッセージを埋め込むわけではなく、サラッと流してしまうところに、むしろ引っかかりを感じてしまいます。
後半、気持ちを吐露し始めるような展開となってきますが、佐世の話しことばがどうも不自然なセリフとなってくるところにモヤモヤします。むしろ、物語の焦点のようなところが、すでに中盤で提示されており、本作の方向性が中盤以降、大きく変わってきます。
ある程度、登場人物の思いが解消された上での、展開なので、この点が、ちょっと他の作品と異なるところではあります。
「誰も手を出さない欠陥品だって」
かなり極論な点ではありますが、でもそう思ってしまってもしかたのないところかもしれません。
「気付かれないように頑張ってるんだから」
楠子の過去の話も出てくることで、本作の方向性がさらに進みます。というか、本作の構成がなかなかすごいです。
「会えるの楽しみにしてる」
主人公が児童福祉職に就職が決まっているということは大いに伏線となっており、このことは些細なことのように思えますが、他人が抱えている問題とは何なのか?という点で、最後のエピソードにグッときます。
物語の解釈は、観る人に委ねる要素はありますが、とはいえ、だいたい同じようなことを感じるのかと思います。
大学生の日々を描いた作品ではありますが、複雑な想いが絡み合いつつも、どこかスルッと心に伝わってくるものがある良作です。