作品紹介
【監督】中野量太
【出演】二宮和也/黒木華/菅田将暉/風吹ジュン/平田満/渡辺真起子/北村有起哉/野波麻帆/駿河太郎/池谷のぶえ/松澤匠/篠原ゆき子/後藤由依良/妻夫木聡/
【個人的評価】★★★★☆
【あらすじ】主人公 浅田政志は、浅田家の次男。家族4人はそれぞれやってみたいことを写真におさめるということを始め、家族4人で面白い写真を撮るにつれて、次男の政志は、写真家へ道を歩むようになる。
サブスクで観る
浅田政志の世界というところの複数の世界の広さを丁寧に描いた作品
中野量太監督は、映画製作を学び、2012年、に長編映画『チチを撮りに』でデビューしています。
二宮和也は、嵐のメンバーとして活躍しながら、2003年「青の炎」で映画単独主演をしており、蜷川幸雄監督に評価され、その後、役者として数々の作品で巧みな演技を見せています。2006年には『硫黄島からの手紙』に出演し、クリント・イーストウッドからも「類まれなる才能」と評されています。
写真家・浅田政志の写真集『浅田家』と『アルバムのチカラ』を原案とした映画です。
第36回ワルシャワ国際映画祭国際コンペティション部門で最優秀アジア映画賞受賞しています。
物語は、実在の写真家 浅田政志の半生のような作品であり、浅田政志が写真を通じてどのようなことを見聞きしてきたかを描いたストーリーです。
二宮和也は基本的に役作りをしないとしているらしく、本作でも役作りをしていないと発言しています。
とはいえ、髭面や長髪など、今までの二宮和也とは違い、いろいろな風貌をしています。むしろ楽しんでいるような気もします。
「そんなんお願いしてみな、わからんやん」
この言葉自体興味深く、サラッと言った言葉ではありながら、浅田家自体のあり方が込められているような気もします。
家族が仲良く「やりたかったこと」を写真におさめていくというところは毎回おもしろいです。
主人公は、浅田政志自身ですが、主人公自体が破天荒な発想でもあり、主人公視点という作品ではなく、家族が主人公と考えるのが良いです。
「政志、たまにはおとうさんの手料理食べにおいでね。」
上京をするのが26歳になりますが、二宮和也が26歳の役をシレッとできるのはすごいというか、貫禄がいい意味でないというような気がします。
「そこまで売れるとも思ってなかったけど、ここまで売れないとは思ってなかったね」
写真賞を受賞してから、本作のもう一つのスイッチが入るような気がします。
浅田政志がやってきたことが、理解されて認められていくのは、序盤と対比しているような気がします。
「一緒に楽しんで撮っとるだけや」
「人を描く」というところに、様々な人の人生や気持ちが詰まっており、どんなことにも前向きな見え方があるところが見えていたんだなぁと思います。
セリフでは表現されていないのですが、演出で、浅田政志の心の機微が描かれていくところがあり、序盤で、浅田政志のキャラクターがわからなかった輪郭がぼんやり見えてくることにちょっと心動かされるところがあります。
中盤以降、東日本大震災が物語上で描かれますが、そこでのエピソードから「当時実際に起ったであろうこと」が、これも心動かされます。
写真家であると同時に、写真に残されているものの大切さを象徴するエピソードに思います。
思えば、中野量太監督作品は、そのスイッチの入るタイミングが絶妙なところがあり、映画の中に独特な手法ながらも、とても自然で意識させない演出には驚かされます。
「だから、娘の写真さがしにきたぁ」
「わたしも家族写真を撮ってほしい」
脇役のようでもある幼馴染の若奈は、出番は少ないながら、しっかりと印象あるところもあり、彼女の存在は、本作でのかなりなキーとなります。
「わたし、一か八かの勝負に勝ったみたいです。」
他にも写真洗浄ボランティアの小野は、あとから、菅田将暉が演じていたということを知り、パッと見、気が付きませんでした。
「なにか大事なことがあるんやろ」
個人から家族、そこから広い世界、そして、家族から個人と視点の拡大と集約が秀逸です。
「なんで、おとうさんの写真がみつからなかったのか、わかったよ」
この言葉の意味は、観ればわかります。これは盲点ではあります。
主人公 浅田政志を中心として描いた作品ですが、主人公だけの目線でもなく、とはいえ、その世界の広さと、浅田政志の世界というところの複数の世界の広さを丁寧に描いた作品で、オススメです。
難点を言えば、ポスターの印象が非常に平凡でもあり、この印象が良くなかったのかもしれないです。
いっそ、「写真集 浅田家」の抜粋で成立したんじゃないかなぁと思うのです。