作品紹介
【監督】犬童一心
【原作】田辺聖子
【脚本】渡辺あや
【出演】妻夫木聡/池脇千鶴/上野樹里/新井浩文/新屋英子/
【個人的評価】★★★★☆
【あらすじ】主人公 恒夫は、ごく普通の大学生。早朝に乳母車を引いた老婆が現れるという噂があり、ある日早朝にその現場に出会うが、その乳母車には、ジョゼという少女が乗っていた。
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セリフや行動だけですべてを表しているわけではなく、言葉にしずらい感情の動きを描いた作品
犬童一心監督は、大学在学中より自主制作映画をつくり、ぴあフィルムフェスティバル入選をします。その後、1995年『二人が喋ってる。』で長編映画監督デビューをし、様々な作品の脚本や監督を手掛けています。大島弓子や1970年代のホラー映画のファンということもあり、作品にはその影響が現れています。
田辺聖子は、恋愛小説などを中心に小説家として活躍しており、第50回芥川龍之介賞をはじめ、様々な文学賞を受けています。また、2008年に文化勲章を受賞しています。
妻夫木聡は、高校生の頃からモデルなどで活躍し、1998年『すばらしい日々』でテレビドラマに初出演をし、2001年「ウォーターボーイズ」で映画初主演をしています。その後、映画とドラマに数多く出演し、2009年『天地人』でNHK大河ドラマの主演を演じています。主役から脇役までこなせる万能的で幅の広い俳優でもあります。
池脇千鶴は、1997年のCM美少女企画として、「リハウスガール」としてデビュー以降映画を中心に様々な作品で活躍しています。
物語は、平凡の大学生と足の不自由なジョゼの出会いと別れを描いた恋愛ストーリーです。
序盤は、そのジョゼの偏屈な生活と性格が描かれ、それに対する恒夫のフツーの大学生の日常が描かれます。
この対比により、物語としての興味が強く惹かれる構図となっており、足に障害があることに何かしらの感情を抱くのかと思います。
テーマ曲は、くるり「ハイウェイ」となっており、本作の内容にマッチしたかのような歌詞で、さらに、名曲となりうるようないつまでも続いて行くかのような曲調が個人的に好みです。
題名の「ジョゼ」「虎」「魚たち」は、ジョゼ自体が憧れている事柄で、その希望を叶えるところが描かれますが、多少捻りが効いています。
直接的にわかりやすく描かれているようで、暗喩も多く、深みのある演出がされています。
そういう意味では、テーマ曲の「ハイウェイ」も歌詞に意味が込められているところがあります。
ただし、岸田繁の意図としては、小沢健二の「ぼくらが旅に出る理由」のアンサーソングとしての意味も込められているそうです。
生活感という点で、ジョゼの家と恒夫の家の対比もありますが、序盤から終盤まで、ジョゼの生活感が変わらず、ジョゼの性格や行動もさほど変わらないと考えて良いです。
その代わりに恒夫とジョゼのちょっとした一つの恋愛についての考えと思い出には変化があり、この点が本作の主題なのかもしれません。
現在は改名しましたが、「江口のり子」が出演しており、恒夫の彼女役を演じています。
恒夫の感情という点では、ジョゼがどのような存在だったかといえば、他の多くの女ともだちは違っていたことはわかります。
ジョゼにとっての恒夫もまた、同じようなところではありますが、結果的に選んでいることを考えれば、ジョゼ自体の意固地なところはあまり変わることはなく、彼女なりの生き方を選んでいるのかと思います。
客観的に見ると、恒夫自体は、よくいる学生感があり、どこかしら物事に流されつつ、自分自身の興味と衝動で行動しているようにも思えます。
クズ男感もありますが、そのくらいのクズさ加減が逆に本作の魅力でもあり、恒夫の感情がギリギリ軽薄そうで、ギリギリ優しいそんな立ち位置ともなり、終盤の嗚咽がむしろ効果的になっているように思えます。
決して裕福ではなく、細々と生活してきたジョゼ自体がこの先、どのように生きていくのかも気になるところですが、エンディング曲のハイウェイがそのことを語っているような曲にも思え、なんとなくな前向き感のあるまとめ方がされているようにも思えます。
メッセージ性やテーマというところでは、明確ではないのですが、一つの恋愛映画と考えればよく、暗喩も含まれていますが、セリフや行動だけですべてを表しているわけではなく、言葉にしずらい感情の動きを描いた作品ではあります。
アニメ映画化もされた作品ですが、物語としては結末は全く異なるところがあり、見比べてみるのも良いかもしれません。
個人的には、本作の実写版の方が好みではあります。