【日本映画】「ワンダーウォール〔2020〕」★★★★★【感想・レビュー】

【監督】
【原作】
【出演】須藤蓮 /
【個人的評価】

【あらすじ】京都にある大学にある学生寮 近衛寮は100年以上の歴史があり、建物の老朽化から取り壊しが進められます。近衛寮の住人は、大学側を相手に近衛寮の補修と保存をめぐり対立が起こる。

しっかりとした脚本と情熱の詰まった良作

前田悠希監督は、学生時代から自主制作映画を作り、NHKに入社後、ドキュメンタリー作品等を手掛けています。2018年『京都発地域ドラマ ワンダーウォール』でドラマを初演出をし、アメリカ国際フィルム・ビデオ祭でシルバースクリーン賞を受賞しています。

須藤蓮は、2016年に「第31回 MEN’S NON-NO 専属モデルオーディション」でファイナリストとなり、2017年より俳優としても活動を始めています。現在は、テレビや映画で活動を広げています。

岡山天音は、2009年に芸能界入りをし、テレビや映画に出演するようになります。2017年『ポエトリーエンジェル』で主演をし、第32回高崎映画祭 最優秀新人男優賞を受賞しています。

本作は、もともとは、2018年にNHK BSプレミアムなどで放送された単発ドラマの映画化でもあり、未公開シーンを加えた再編集版でもあります。

物語は、大学の学生寮 近衛寮の存続をめぐり、大学側と学生側との対立を描いたストーリーです。

「その時、恋が始まった・・・のかと思った・・・けど勘違いだった」

「それでも、これはラブストーリーだ」

序盤は、近衛寮の存在とその成り立ちを丁寧に描いており、非常にわかりやすい展開となっています。

敬語は禁止、ジェンダーフリーのトイレ、多数決を取らない全員一致の会議など、共同生活をする上での、民主的な構成により近衛寮は成り立っています。

本作は、もともとNHK制作のドラマとして作られたことで、ドキュメンタリーとドラマのちょうど中間のような描き方がわかりやすくできているのかもしれません。

近衛寮の住人たちと学校側との対立が描かれていますが、近衛寮側の視点となっていますので、多少一方的な印象もありますが、こういう作品では体制側を観るよりも面白さがあるので、この描き方は訴えてくるのものがあります。

丁寧な演出でもあり、その当時の社会情勢の説明もあり、ベルリンの壁からの学校側と生徒側の壁自体も上手い繋がりになっています。

学校との間に立つ学校側担当者も、寺田という人が担当者で、担当のさらに上役と対話を持つことができないので、そのあだ名が「テラダポッド」というモジリでのあだ名は、秀逸です。

学校側に抗議に行くところが、まず発生しますが、このシーンで何もいえずに立ち去る三船とその状況でじっと一点を見つめる志村の伏線にはなかなか良い導線となっています。

成海璃子のギョロッとしていないながらも、しっかりとした大きな瞳には吸い込まれそうな魅力があります。

そして、その着ている服の曲線はさすがにズルいようにも思います。

その描き方にはしっかりとしたキャスティングともに言え、成海璃子であった必然性があります。

本作は、京都大学に実在する学生寮 吉田寮がモチーフとなっており、この寮のある場所が近衛という地名なので近衛寮となっているかと思います。

外観自体も実際の寮の場所でロケされていますが、建物内自体は作り込まれたセットであると思われます。

寮の運営は寮に入居している人たちで運営されており、実際の吉田寮も同じように運営がされています。

実際の吉田寮は、2020年現在、一ヶ月あたり約2500円(寄宿料400円・水光熱費約1600円・自治会費500円)で生活ができるので、当然お金のない学生にはこれほどの環境はなかなか無いわけです。なお、180部屋ありますが、すべて相部屋ということになっています。

本作の建物老朽化による取り壊しと補修の対立については、民主派と共産派のような印象もあり、大学と学生寮の対立という点は、社会の縮図をみるようなところも感じます。

学生同士の話し合いや意見の主張があり、大学の学業以外の要素として、得られるかけがえのないものでもあります。この雰囲気とニオイは、学生でもあり、社会人でもあるような曖昧な立場での大学生時代に得られるものでもあります。

責任感を抱くもの、そのあとについていくだけのもの、どちらにも属さず流れるままのもの、それぞれがそれぞれに考えがありますが、この時期に何かをやり遂げようと動いた人は後々の人生でも同じように歩むだろうし、後ろについていくものは、それ以降も、先導できるポジションには行き着かないようにも思います。

これはラブストーリーなんだと言うことになりますが、ここの住人はこの寮の歴史と仕組みが息づいているところに愛情があるのかと思います。ひねくれていますが、愛情のある物語です。

「どうか頑張ってください 頑張れるところまで。」

終盤の成海璃子の再登場が本作のポイントを抑えてくれており、役柄上では、京宮大学の卒業生ということでもあり、学生課の人間でもありと、まさに要となるところでもあります。

「いったい、こんなオンボロ寮ひとつに何をそんなに騒ぐ必要があるのか?」

序盤は、志村と近衛寮の出会い、そして、終盤は三船と近衛寮の出会い。言わずもがな、この二人の名前は、黒澤明の映画の常連俳優から取られているのだろう。

ラストを締めくくることは、現在進行形のことでもあり、明確な決着はわからないのですが、その締めくくりでも作品自体はなんら問題では無く、むしろ近衛寮の人々のことが非常に興味深く描かれています。

まとめとして、京都の学生たちによるブラスバンドでの演奏が挿入されていますが、「ドラマに共感した人」が参加したセッションであり、この歓喜さというのは若いときにありその時だから発揮できる熱量でもあり、学校に通ったことのある人なら少なからず理解できるところかと思います。

もともとNHKのドラマであるという点ではありますが、しっかりとした脚本と情熱の詰まった良作です。

予告編

www.youtube.com

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